--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2009/09/01 (Tue) 【FILE2】佐久間都の場合

さて、なんとか自分で定めた締め切りに間に合わせました。FILE2です。
甲村編よりかは大分短いと思いますので、さらっと読んでいただければ。
それではどうぞー。



【FILE2】 佐久間都の場合 ~ふぁいるに さくまみやこのばあい~

佐久間都は泣いていた。
その年齢には少し不似合いな、可愛らしいプリントがされたクッションの上で体を小さくして、泣いていた。

狭いアパートの一室で、佐久間はずっと夫の帰りを待っていた。
目の前のテーブルには、いつもの倍はあるのではないかという量で、色とりどりの料理が並べられている。
佐久間にとって、今日は重要な日であった。

けれど、時計の針は無情にもその身を動かし続け、佐久間の望みが叶う前に、その身を十二の位置で重ねた。

今日が、終わった。


佐久間はひたすらに涙を流し続けた。

しんとした空間に、嗚咽だけが不気味に反響する。

佐久間は、悲しむことよりも涙を流すことを優先していた。

一般で言えば、『悲しむ』ことと『涙を流す』ことは同じ立場にして、連鎖的な意味合いを持つものであろう。
だが、佐久間にとってはそれは別々なもので、『涙を流す』ことは佐久間にとっての一つの手段なのである。


佐久間は心の内で夫を呪いながら、真っ赤に腫らした目を見て、夫がどういう反応をするのかを想像した。

そこで少しだけでもうろたえて、私の身を頭のどこかで案じてくれれば、いくらかこの心は晴れるのだけど。

涙をぼろぼろと流しながら、佐久間はふふふと笑みを作る。
歪んでいる。
そんなことは、佐久間は自身で理解していた。


佐久間の日課は、どうすれば夫から再び愛情を注がれるのかを思案することであった。

佐久間の夫は、仕事に没頭する毎日を送っていて、妻の存在を忘れているのではないかという程だった。
佐久間が毎日要求されるのは一般の家事のみで、『夫婦』と呼べる関係はそこに成り立っていなかった。

二人の間に、喧嘩は全く起きなかった。
佐久間は、ここで暮らし始めたあの頃の夫に戻るまで、ひたすらに献身的に努めようと心に決めていた。
一言も文句を漏らさず、機械のように同じ行動を毎日続けて、何年も過ごした。

けれど。
その間に積もり積もった暗いものは、佐久間の心のずっと深くまで仕舞い込まれて、いつしか献身的な愛を捻じ曲げるに至った。



これは、ゲームなのだ。



佐久間は、毎日そんな風に考える。
どうすれば、あの夫から愛情を手に入れることが出来るのか。
再び自分へと注がれる愛情を感じ取ることが出来れば『勝ち』。
そうでなければ、毎日、毎日、『負け』がこの心に刻み続けられる。

さっきまで続いていた昨日も負けた。
『結婚記念日』という特別な状況下でのゲームにおいて、佐久間は非常に有利な立場であったはずだった。

ぎっぎ。ぎりり。
歯を食いしばって音を立てる。

普通でない思考に陥りながらも、彼女の知りえない所で、確かに悲しみが胸を締め上げているというのに、『負けた』悔しさからだけでその歯音は鳴いていた。




それからも、全く同じ日常が過ぎ去って、佐久間の戦績はひたすらに『負け』を示し続けた。


どうすればいいのかしら。
私はこのゲームに『勝たなければ』いけないのに。

あまりに長い期間を歪んだ感情の元で過ごし、佐久間はさらにその闇を深くしていった。

漠然とした思いがぐるぐると頭の中を回り続け、その先で欲していたものは何であったのか、忘れてしまっていた。
その代わりに、佐久間の中で『ゲームなのだ』という感覚が増していって、それは幻を造り上げていく。


ぶーぶーと、自分を批難する声が、佐久間には聞こえた。

「そうだわ。昨日は久しぶりに夫が早く帰ってきたものだから、私の方の勝率が少し上がっていたんだ。」

ぴらぴらと手帖をめくる。
『八月十三日』という枠の中に、

私 三十二 倍    改め、  私 二十七 倍
夫 一・四 倍    改め、  夫 二・六 倍

と書かれていた。


あの倍率なら少しは望みがあったのに。
またあっちの勝ちかよ。つまらない。
やっぱり堅実に当てていくほうがいいな。


がやがやと、佐久間の頭の中を幻聴が駆け巡る。
はっと気がつくと、沢山の人が佐久間を取り囲んでいた。
もう何度も経験している感覚。


ある人は喜びと共にその身を躍らせ、ある人は口汚く佐久間を罵って、何枚もの紙切れを空へと放った。
渦巻く歓声と罵声。紙の舞う空間。
佐久間は行ったことはなかったが、それを所謂『賭け事』の類が行われる場に近いものだと思った。

佐久間はそれにひどく怯えた。

「明日こそは必ず。」

と、何度も声に上げながら、震える手でスタンプを取り出して、手帖に押し付けた。

くっきりと、綺麗に映える青。

それが示すものこそ、佐久間の『負け』だった。
 

――――。


佐久間は朝の家事を終え、当然の流れのように手帖を開く。
ぴらぴらぴら。
今日、『十月二十三日』。
レートは相変わらずの偏りを保ったままであった。
佐久間はペンを取り出し、一週間先の分まで、自分でレートを記していく。

ふふふと笑いながら、一人であるはずもない予定を書き込んでいるようで、周りから見れば不気味な光景。

佐久間は、日ごとにレートを変化させていく。
それはやがて佐久間と夫との間の偏りを無くしていく。
まるで二人の間に立ちはだかった壁が崩れていくようなその変化は、ピークを迎えるであろう週末で止まった。

『十月三十日』。そこにはレートは書き込まれず、代わりに『休止』と『私の誕生日』という文字が書かれていた。

佐久間は、この日の『ゲーム』は成り立たないと考えていた。
佐久間の夫は、結婚以前から、佐久間都の誕生日には必ず花束を買って還ってきたからである。

それは毎年、愛情を感じなくなった近年でも欠かさず続いていて、途切れることは無かった。
けれど、それはあくまで儀式のようなもので、夫自身が止めるに止められなかった、自らへの戒めのようだった。

佐久間は去年の誕生日を思い出す。

その日の佐久間都は珍しく、澄み切った笑顔を表へ出して過ごしていた。
しかし、だんだんと陽が陰り沈んでいくのと同じように、彼女の表情は曇っていく。
並べられた大量の料理を前に泣き出そうとしたとき、がちゃりと扉の開く音がした。

ぱあっと顔を明るくした佐久間の元に、無造作に投げ込まれた花束。
固まる笑顔。
送られたそれは上品な香りこそ醸し出しているものの、肝心の夫は一言も告げずに洗面所へと去っていった。

ふるふるとその体を細かく揺らす佐久間。
普通ならば、わあっと泣き出す所かもしれないが、佐久間は小さな笑みを浮かべていた。
佐久間は寂しく思いながらも、自分の誕生日こそが夫との最後の繋がりのような気がして、妙な嬉しさを感じていたのだった。




歪んでいる。
佐久間自身も、夫との関係も。
だが、そんな歪みの中で、誕生日に花束という『儀式』が継続する限り夫と離れることはないという確信を持って、佐久間は一週間を過ごした。




そうして向かえた佐久間都の誕生日当日。
今年も佐久間の顔は澄み切っていた。
今日は例の幻覚は襲ってこない。罵られることもないのだ。
思えば、レートを記し始めてから、誕生日を迎えたのは今年が初めてだ。
夜までいつものように過ごして、夫が還ってきたら、ただ『儀式』を受けてあげよう。
私と夫は、そうして続いていくのだ。


どうせまたこれを一人で食べきれずに捨ててしまうのだろうと思いながら、佐久間は料理を作り上げていく。
夜と呼べる時間帯に入り始め、佐久間はいつになくどきどきと鼓動を早めてしまう。

佐久間はクッションの上へと身を落とし、ひたすらに夫の還りを待つ。

今年はどんな花だろうか。
確か一昨年のものが一番大きかったけれど、今年はどうかしら。
あの人はお金は沢山あるからと、この日は全く惜しまないのよね―――。

ちく、たく、ちく、たく、ちく、たく。

部屋に置いてある唯一つの時計が、その身を忙しなく動かす。

あれ、どうしてだろう。
いつの間にか、こんな時間に。

針と針は身を寄せ合いながら、徐々に頂へと至ろうとしている。



・・・え?



嘘。嘘よ。
だって、今日は、私の、誕生日。
もう何回と続けてきたか分からないほど、当たり前な日なのに。

嘘。嘘。嘘!

佐久間はざっと立ち上がって時計を両手で掴む。
安い素材で造られたそれは、容赦なく加わる握圧により軋み、不快な音をあげる。

待って!待ってよ!!

まだ、『今日』は、終わらないで。


――――。



佐久間はぼうっとしていた。
両の手の中で、痛みを訴えながらも働き続ける時計は、四時半を示している。
もうすぐ朝が始まる。

少し早起き過ぎた小鳥などが意味もなく鳴いている。
それをどこかずっと遠くに聞きながら、佐久間は同じ姿勢のまま、定まらない焦点で時計の針を見つめていた。

佐久間の中で、今まで支えてきた芯のようなものが、ぽきりと折れてしまった。

ずっと寂しかった。
ずっと悲しかった。
ずっと、ずっと、かつての夫が還ってくるのを、待っていた。

『ゲームなのだ』という幻覚を造って奥へと塞ぎ込むなんて、歪な守り方だったけれど。
佐久間は心の底で、ずっと夫の愛情を待ち望んでいた。

押し潰されそうなほどの孤独の中、一年に一度だけ来る希望の日。
それは『儀式』のようなものだと解釈したけれど、やはり贈り物からは微かな愛情を感じ取ることが出来て。

強がってはいたけれど、自分がそれをどれだけ支えにしてきたのか。

今になってようやく気付いた佐久間は、そこまで考えが至ると、その支えさえも失ってしまった事実を再認識してしまう。
ぱたりとそのまま横へと倒れ、重力に引き寄せられるまま、床に体を任せる。

ぼろりと涙が出てきた。
虚しく反響する嗚咽。
佐久間は何年ぶりかの、本当の涙を流した。


うっぐ、えぐ。
途切れることなく流れ出る涙で、頭に添えられたクッションはぐしゃぐしゃになっていく。

「これから私は、どうすればいいのだろう。」

ぼそりと、時計に話しかけるように言った。

「取り戻せばいいのですよ。」

佐久間は、はっとした。
この部屋には、自分しかいないはずなのに。
いつもの幻覚だろうかと思いながら、ゆっくり身を起こすと、すぐ目の前に人が浮かんでいた。

真っ黒なスーツをぴしゃりと纏っていて、清潔さと共に妖しい雰囲気が漂う。
頭に被らせているハットのふもとは、不自然なくらいに影が濃くなっていて、目元が見えなかった。

いつも私を罵る人たちではない。

佐久間は、それが自分を取り囲んでいた幻覚とは全く別な存在であることを感じ取っていた。

「あなたは夫を取り戻したいのでしょう?ならば、そのようにすればいいのです。」

性別の判断をつけにくい、音の高低の間をゆらめくような声は、佐久間の鼓膜を妖しく刺激する。

「取り戻すって・・・。どうやって?」

佐久間はその存在に惹きつけられるように立ち上がり、話の先を求めた。
立ち上がったことで顔との距離は多少縮まったものの、相変わらず不自然に翳っていて、口元だけで表情を表している。

ふふふと、艶やかな唇の端を曲げて、それは言う。

「憂いるあなたに、ささやかなプレゼントを。」

ふわりと舞うように手を広げたと思うと、佐久間の両手に握られていたはずの時計が、洒落た箱に変わっていた。

佐久間はなにも驚かなかった。
目の前に浮かぶ存在を疑いもしなかったし、受け取ったその箱を当然のことのように開け始める。

佐久間は、こういった非現実的な力でないと、自分を救うことはできないと思っていた。
今までは自分自身を『ゲーム』という殻で守ってきたけれど、今は予期せぬ外部からの力が働いている。
変わるなら今しかないと、佐久間は躊躇い無くその箱を開けた。


ひっそりと静かに、しかし威圧するように、箱の中に横たわる銃。

どくんと大きく胸を打つ音を、佐久間は確かに聞いた。
このまま人外な力による解放を想像していた佐久間は、あまりにリアルなその黒を見て、じわりと額に汗を滲ませる。

ぞわぞわと、体中の肌が波打つように逆立つ。
急に可笑しくなってきて、意味もなく佐久間はふふふと笑う。


確かに、これであの人を撃てばずっと一緒にいられるかもね。


頭を一瞬かすめた光景に、佐久間は少し怯えて、また笑う。

同じように口元を歪ませていた送り主は、するすると佐久間の下へ降りてくる。
ちょうど同じ地に足をつけたことによって、佐久間よりずっと高い背丈が際立つ。

「それはですね。普通の銃ではないのですよ。
 全てを壊すことのできる銃。
 モノだって。人だって。なーんでも。」

両手をぐわあっと広げて、得意気に話す送り主。

にやにやと浮かべていた笑いを一旦止めると、佐久間は問い返した。

「なんでも?なんでも壊せるの?
 だったら。だったら、あの人を変えてしまったものを壊してしまえば―――。」

そこまで口にしたとき。
目の前で影のようなものがゆらめいたと思ったら、あの送り主はいつの間にか佐久間の後ろへと回り込んでいた。

ふわりと二つの掌を佐久間の両肩へと乗せて、顔を耳元へ近づけて話す。

「そう。あなたは邪魔なものを壊して、愛しい夫を取り戻すことができる。
 けれど、一つだけ留意しておいてもらいたいことが。
 その銃を使うことができるのは、たった一度だけ。
 それだけは気をつけて。」

大人しく聞いていた佐久間が、こくりと子供のように頷くと、送り主はくしゃくしゃと頭を撫でる。
その後、肩から腕の方へと両手を這わせながら移動させていき、手の甲まで達する。
優しく手を添えられ、導かれるように佐久間は銃を握った。

先程よりもさらに耳に近い距離で、送り主はささやく。

「壊してしまいたくてたまらないものを、頭の中いっぱいに浮かべれば、その想いは弾丸となります。
 そうすれば後は簡単。こうして、引き金を引く、だけ。」

鼓膜を震わす振動と共に、吐息が耳に触れるのを感じて、その声は佐久間の脳髄まで麻薬のように広がる。


人差し指だけ佐久間の手から離して、送り主は一気に引き金を引く。
かしんという短い音が間抜けに鳴った。
佐久間の掌は汗で濡れていたが、その表情は恍惚そのものであった。

そこまでしてから送り主はゆっくりと体を離し、もう一度佐久間の頭を撫でる。

「それでは、期待していますよ。」

最後にそう言ったかと思うと、佐久間が振り向いた先にもうその存在はなかった。
佐久間は少しだけ残念そうな目をした後、自分の手に握られたものを見つめる。

さっき言っていたことが、本当なら。

ざざっと、佐久間の頭の中で、今までの灰色の毎日が映し出される。
それをだんだんと巻き戻していく。

あの人が、変わった理由。

それは、一つしかない。
仕事。とり憑かれたように没頭し始めた、あの仕事が全ての元凶なんだ。
あんなもの、いらない。
あれが無ければ、いつだってあの人はこの部屋で、私の傍に居てくれる。

標的が定まる。

もう一度佐久間がぎりっと銃を握りなおすと、かちゃりと渇いた音がした。

弾が、込められたんだ。

佐久間は、無意識にそれを理解する。
いよいよ後は引き金を引くだけとなったとき、突然戸棚の上の写真立が、佐久間の前に落ちた。

ずっと昔の笑顔が、佐久間の視界の中心に映る。
ガラスで守られていたその写真は、なにも色褪せることを知らず、佐久間へとなにか訴えているようにも見えた。

「何、何よ。いまさら・・・・。」

ただの写真。
しかし、佐久間はそれから目を離すことができない。
優しすぎる想い出が、果てしなく頭の中で反響し続ける。

二つの感情の間で押し潰されそうになったとき、昇り始めた陽の光が、偶然カーテンの隙間から入り込んできた。
それは、佐久間の横を通り抜けて、写真の中の夫を照らした。

その瞬間、佐久間の頭の中のなにかがぷつんと切れた。

「結婚前から、子供は三人欲しいよねとかさ・・・。
 いつか家を建ててずっと一緒に過ごそうとかさ・・・!!
 あんなに、楽しく毎日を過ごしていたのに!!
 あんなに、愛おしく想いあっていたのに!!
 あなたが、あなたがっっ・・・・!!!」

せき止めていた感情が制御を失って、そのまま言葉として発せられる。
喉よりも、腹よりも、もっと深く、深く。
ずっと閉じ込めていた心の底から、佐久間は泣きながら叫んだ。


ぶるぶると痙攣する手を無理矢理に重ねて、銃の照準を、写真へとまっすぐに固定する。
体中から吹き出る汗が、零れ出る涙と混ざって、雨のように床へと落ちた。


大好きだから。
還ってきて、欲しいから。
佐久間は、引き金を、引いた。


がんっと大きな反動を受けて、佐久間は尻餅をつく。
確かに弾丸は放たれたはずなのに、どこも壊れている様子はない。
しかし、両腕に残る痛みは、確かに撃ったのだと、佐久間に認識させる。

尻餅をついた態勢のままぼうっとしていると、手の中にある銃が突然熱を帯び始めた。
気付いたときには黒に赤みが差していて、溶けていくように見えた。
佐久間は熱さに耐え切れなくなり、銃を放り投げる。
銃は床へと空しい音を立ててその身を落ち着けると、その場でさらさらと砂のように崩れていった。



――――。


それからの数時間、佐久間はそわそわと過ごした。
夫からはなにも連絡が無く、いつもと同じ一日が過ぎ去っているように感じられた。

誕生日の翌日の夜。
久しぶりにぎいと鳴いた扉の向こうから、夫が姿を現した。

しかし、その顔はとても人のものとは思えないほどに弱りきっていた。
仕事を、失ったのだろう。

不景気だとか、そんなこちらの事情とは関係なく。
人外の力によって、有無を言わさずに。

それでも、佐久間はぱあっと顔を明るくして、扉の前で立ち尽くす夫へと近づいていく。

佐久間の姿を認めているかどうか怪しいくらいに虚ろな目をしている夫。
その頬へと手を添えて、佐久間はそっとキスをした。

「大丈夫、私がいるから。
 二人でいっしょなら、どんな生活でもいいから。」

そう明るく言って、体を引き寄せて抱きしめる。
そこで、佐久間は、気付いた。

夫の肩へと頭を乗せて、ぎゅっと抱きしめた向こう側に。
後ろ手で隠すように持たれていた、大きな花束。

「・・・・・・ごめ、ん。」

夫がやっと口にした言葉。
佐久間がその意味を知る頃には、夫は力なくその場で座り込んでいて、声をあげて泣いていた。

佐久間は、自分の中の様々なものが、悲鳴をあげながら崩れていくのを感じた。

真っ黒な罪の意識だけが、佐久間の頭の中をどろりと支配して、夫と同じように、座り込んで泣いた。

その内容は違うのだけれど、二人の懺悔のように泣き声は響き続けたのだった。



       ◆


あの日以来、夫は人が変わったように優しくなった。
いや、実際は元に戻ったという表現のほうが正しいのだけれど。
全てを失ったというのに、彼は立ち直った。
新しい仕事を見出して、あの頃と同じくらいに働いているけれど、私のことを第一に考えてくれている。

「そんなに働いたら、身体をこわすわよ。」

私は、微笑みながら言う。

「お前の、ためだからな。」

同じように微笑みながら、彼は返してくる。

あれから、かつての幻覚のようなものは見なくなった。
けれど、今は彼の優しさが、毎日のように私の心を貫く。
それは、とても痛いのだ。

私を罵るのではなく、咎める声が、すぐ傍まで迫ってきていることに、私は薄々感付いていた。
それでも、今度こそは正面から向き合っていける。

いつか心の底から笑えるようになったら。
謝ってから、贈ろう。

見たこともないほど豪華な料理も添えて。
大きな大きな、花束を。


【FILE2】 佐久間都の場合 ~ふぁいるに さくまみやこのばあい~


読んでいただいた方、つまらんと飛ばした方も、ありがとうございます!
行間無駄に使いすぎだよってツッコミはなしで。笑
今回はFILE1とは逆に予定よりさらに短くした感じです。
元々「愛情ゲーム」みたいなタイトルで別物のアイディアだったのですが、これで一作品として書くのは黒目にとってハードルが高すぎたので。
取り入れながら展開してみましたが、やはり難しかったです。

かなり読みにくいものになってしまいましたが、お蔵入りになるようなものをちゃんと書けた気がしてこちらは気分が良いです。笑
何か感想があればコメントに残していただけると嬉しく思います。

次は、ずっと書きたかったFILE3!!
量は少し多目になると思われます。
来週末までには、載せれる・・・と思います。


【次回キーワード】
憧れる 園田妹 あのお方はまだ自粛 

次は、【FILE3】園田愛理の場合① です。お楽しみにっ


←BACK
【FILE1】甲村陽一の場合②

 NEXT→
リンク貼り予定。
スポンサーサイト

連載小説 | trackback(0) | comment(10) |


<<No.13 お天気メーカー | TOP | No.12 blank map>>

comment











管理人のみ閲覧OK


 

うおおおかっこいい...!FILE1のときも思ったのですが心理戦のくせしてまるでアクションであるかのようにどきどきさせる内容ですね!もう途中から手に汗握ってました 笑
希望色の強い終わりが好きですー!口径 is 9mmのときはものすごくダークだったのですがこっちはちょっとヤン(というか病ん? 笑)くらいですよねー雰囲気が変わった気がしますー...それかやはり登場人物によってそれぞれなのでしょうねw
(あのお方自粛かーと肩を落としたのは内緒です★

2009/09/01 22:35 | コウ [ 編集 ]


 

>コウさん
感想ありがとですー!
心理戦のくせしてまるでアクションって、まさに自分が今回目指してるテーマですよ!!
すっごい嬉しいですー!
手に汗握ってくれて本当にありがとうございます。笑
FILE2はちょいヤンですね。
佐久間さんもいつかまた登場する予定なんで年増だけど愛でてやってくださいw
次回はまだ前半で終わると思われるので、あのお方には自粛していただきますっ
でもちゃんと後でいらっしゃる。はず。

2009/09/01 22:50 | 黒目 [ 編集 ]


ハラハラしました。 

今晩はー
いくつか小説読ませていただきました。
すごいですね!
特定のキャラクターを登場させて、
様々なパターンの小説を書かれるのは
時として同じような話になりがち(私だけかもしれませんが)ですが、
一話一話新鮮な気持ちでドキドキしながら読ませていただきました。
私もダークな世界観が好きなのですが、ハッピーエンドもいいな~と思いました。
…というか読み手にとって希望を与えられるようなテーマで書きたいものです(笑)

なかなかちゃんと話の起承転結もできててわかりやすかったですし、
また次回作も楽しみにしてます☆(あ、あと白地図の話、大好きです!)

一つ気になったのですが、最初のほう…「機械」が「機会」になってます。


仕事でなかなかすぐにチェックできないのですが、
またお邪魔させていただきますねv
こちらも頑張って更新します…!

2009/09/02 20:29 | 藍 [ 編集 ]


 

>藍さん
お忙しい中、訪問&コメントありがとうございますー!
世界観を共にするオムニバス形式に近いような感じで書いていますので、マンネリした感じにならないかと心配でしたが、新鮮と言っていただけて嬉しいです。

白地図の方も読んでいただけましたかー!
「大好き」なんていわれるともう嬉しすぎますっ。
ああいった雰囲気のものも少しずつ載せていければいいなと思います。

誤字のご指摘ありがとうございます!!
すぐに修正しておきますねっ
自分では意外と気付けないので、ご報告していただけるともの凄く助かります。

お互いまったり更新頑張っていきましょー!

2009/09/03 00:46 | 黒目 [ 編集 ]


 

読ませていただきました!

凄くリアルな描写で佐久間さんのこうメラメラした感情が伝わってきました。

とくに夫との関係をゲームとして勝率をカウントしているっていうところが今まで映画や本でも観たことがなく、すごく面白い表現ですね!!

最後に2人の関係があのお方のおかげもあって、修復に至るのはおぉ、いいなぁって思いました。

続きは園田氏の妹さん・・・どんな方なんでしょうか!?
そしてあのお方は自粛!!なぬ!?
楽しみにしてます☆

2009/09/04 21:40 | ツーヨン [ 編集 ]


 

>ツーヨンさん
感想ありがとうございますー!!

歪んだ感情でのスタートから最後まで一気に読んで欲しかったので、分割せずに載せたのですが、結果佐久間の感情をよくお伝えできたようで嬉しいです!!

>とくに夫との関係をゲームとして勝率をカウントしているっていうところが今まで映画や本でも観たことがなく、すごく面白い表現ですね!!

うおぉ。嬉しいです!!
もの凄く書きたかったアイディアだけど、自分では一つの作品として完成することはできないと思っていてほぼお蔵入り状態だったので、今回ここで使ってよかったと心から思いましたー!

佐久間は自分の予定ではあんなラストを迎えるわけではなかったのですが、書いているうちに非常に愛着が湧いてきた人物で、終わり方はソフトな感じに。

続きは園田の妹が主人公です。きっと明るい子になるかと。
あのお方は、前半では少し自粛していただきます。笑

2009/09/04 23:36 | 黒目 [ 編集 ]


 

お邪魔します。
とても面白かったです。個人的にはバッドエンドも見てみたいです(笑)
面白い作品に口出しして申し訳ないですが、夫もゲームしていてお互い知らずに駆け引きをしていた。等の設定も付け加えたりしたら心理戦の駆け引きがもっと面白くなるのではないかと感じました。
決して物足りなかったとかではなくて(汗)
偉そうなことをいってすいません、心理描写がうまくてうらやましいです。

2009/09/07 12:48 | ツドホ [ 編集 ]


 

>ツドホさん
いらっしゃいませー!訪問&感想ありがとうございます!!
夫側もゲーム設定ですか。確かに、かなりの心理描写で物語を彩ることが出来そうですね。力量が問われますが。笑
今回は短めにしたかったのと、夫の捻くれた不器用さを出したかったので、仕事一筋みたいな設定にしてみました。

少しでもなにか思ったことを、こうして伝えていただけると、本当に嬉しいです!
最近少しずつ、自分の書く文章に自信を持つことができるようになってきましたので、様々な意見を参考に、精進していきたいと思っています。
是非是非、またいらしてくださいねっ!
貴重なご意見ご感想ありがとうございました!!

2009/09/07 23:23 | 黒目 [ 編集 ]


管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2010/01/19 23:54 | [ 編集 ]


 

>ホチさん (反転

思いっきり催促してしまって申し訳ありませんでしたw
このブログ内では一番自信を持って勧められる作品なので、是非ホチさんに読んでいただきたいと思いまして。
にやにやは出来ませんでごめんなさいw

夫婦ってのは父上と母上をずっと観察して、いろいろと妄想しながら書いてみましたw
学生の青春もいいですけど、「大人」の物語を高校生、大学生が書くとまた独特の視点で描けるかもしれないかなと。

センター、今ネットでリサーチ見てやっぱり凹みそうですが頑張ります!

2010/01/20 22:29 | 黒目 [ 編集 ]


trackback

trackback_url
http://black6i1.blog24.fc2.com/tb.php/84-79ccdde8

| TOP |

プロフィール

黒目

Author:黒目

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。