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2009/06/13 (Sat) -1- Z棟

-1- Z棟



   ‐ラルス・カヌス‐


人間の体は、なんとも不思議なものだと俺は思う。
ほとんど同じ時間に行動し、同じ食事をし、同じように笑う。
誰がどう見たって代わり映えのない生活。
そんな生活を送っていた人間の体が、突然壊れてしまうことがある。
理由なんてない。
神様というやつが、ほんの暇つぶしのつもりで壊してしまったのかもしれないし、自分の周りにいた幽霊というやつが、友達欲しさに壊そうとしているのかもしれない。

とにかく、俺は普通の体ではなくなった。

俺は、いたって平凡な高校に進み、いたって平凡な大学へ進んだ。
そして、いたって普通の成績で教習所をクリアし、自動車免許を手に入れた矢先。
急に体調が悪くなり、悪くもなく、良くもない平凡な仲である家族に病院へ連れていかれ、何も分からぬまま入院。
今思えば、俺の人生の中で、唯一「異常」と言えるのは、俺の体だけかもしれない。
一週間の入院の後、俺は手術もしないまま、普通の病棟とは少し離れた病棟に移される。
病名など知らない。どこが悪いかも知らない。
でも、正直俺は、あまりにも平凡な俺の人生にうんざりしていて、この病との遭遇に少し胸の高鳴りを憶えていたのである。
この思想自体もう「異常」かもしれないけれど、これからの出来事は、俺の人生の中で、いままでの平凡さからの反動で来た、「異常」のピークだったのであろう。


<1> ‐Z棟‐

俺の腕に、常に点滴がつくようになった。
今日から新しい病棟へ移る。
恐らく俺の体はかなり悪い状況なのだろう。
それでも、俺は平気だった。
この先なにが起こるかわからないこの状態が珍しく、迫っているはずの「死」には全く意識がなかった。
いつの間にか眠っていて、起きれば、既に新しい病棟。
静かにベッドの横に立っていた看護士から、いくつか説明を受けたが、半分は聞き流していた。
最後のほうに、「病棟内ならば、自由に行動していただいてかまいません」と言われ、不思議に思う。
この前は、ベッドから全く出られなかったのに、新しい病棟ならOK?
俺の体は、むしろ快方に向かっているのではないか。
それはそれでいいかと思い、考えるのを止める。
「それでは…」と、去り際に、看護士が俺の手首に黒いテープを巻く。
触ってみて、簡単には切れない素材だとわかる。
「これは、この病棟の患者様だという印なので、はずさないようにお願いします。」
淡々と説明を終え、病室を出て行く看護士。
(はずさないようにと言われても、これははずしようがないだろ…)
手首に巻かれたテープを見つめる。
何も模様がない漆黒の黒。
当然大した面白味はなく、興味も薄れていく。
俺は、病室の外へ出ることにした。
入院前と全く狂いのない感覚でベッドを起き、外へ出る。
真っ白だった。
清潔といえば清潔な印象を受けるが、あまりにも白ばかりで目が疲れる。
廊下を少し進むと、なにやらにぎやかな声が聞こえる。
少し広間があって、休憩所のようになっている所に、男と女が二人ずつ座って談笑していた。
みんな、先ほどの黒いテープを手首に巻きつけていた。
患者なのは分かるが、元気すぎる。
やはりここは、もう退院間近の患者が来るところなのだ。
四人の内、一番大声で笑っていた男が、こちらに気付いて声をかけてきた。
「おお、お前新入りだろ?一緒に話さね?どうせやること無いっしょ。」
軽い。ノリが軽い。
「ああ。別にいいよ。」
…あっさり受けてしまった。
(まあ、いいか。どうせ暇だし)
男に手招きされるまま、もう一人の男の横に腰掛ける。
テーブルを円く囲うように五人が座る。
「んじゃ、自己紹介からいこっか。
 …俺は、ダイスケ。フツーの名前で覚えやすいっしょ?よろしく。」
勝手に男が司会をしている。別にいいけど。
「僕は、康太郎。みんなコウって呼ぶから、コウでいいよ。よろしく。」
「私は、マコ。元気ありあまっちゃって、どついたりするかも知れないけど、よろしく。」
続いて残りの男と、片方の女が自己紹介する。
ここでは普通かもしれないが、こうも一気に言われると疲れる。
マコ?は、「よろしく」を言い終わった瞬間に、もう俺の肩をたたいていた。
俺が自己紹介をしようかと思ったら、前の女が声を出した。
そういえば、この女のことを忘れていた。
みんなが騒がしくするものだから、もうみんな一気に自己紹介を終えたものだと勘違いしてしまったのだ。
「……。私は…アヤ。しゃべると疲れるから、あんまりしゃべらない。…よろしく。」
この女は静かだった。
見てみると、みんな自分とそれほど歳は離れていないようだった。
むしろ、自分が一番年長者かもしれない。
みんなの視線が集まってきて、はっと気付く。
今度は自分の自己紹介を忘れていた。
「あ。えっと…俺は、秀一。シュウでいいよ。…よろしく。」
(こんな感じでいいの…か?)
一瞬の静けさに多少焦ったが、すぐにみんな笑顔を向けてくれた。

自己紹介を終えただけで、みんなは俺を仲間だと認めてくれたみたいだった。
さっき初めて見たはずの人物に、どんどん話題を振ってくる。
話の内容はいたって普通で、芸能界の話や、スポーツの話など、違和感は全く覚えなかった。
この病棟内では、ほとんど一緒にこの四人は過ごしてきたようで、その輪の中に加わることができるのは素直に嬉しかった。
みんなもう俺のことを、「シュウ」と気軽に呼んでくれて、話が苦手そうなアヤも、あだ名で呼ぶことに抵抗は全くないようだった。
話していると、大体みんなどんな人物なのか分かってくる。
軽いノリで、場の雰囲気を常に明るくしてくれる、自称イケメンのダイスケ。
ブラックなジョークをやたら連発するけど、本が好きらしく、物知りなコウ。
どんなことにも笑ってくれて、少々強めのツッコミを乱発するマコ。
少し口数が少ないけれど、時々小さく笑って、みんなを癒すアヤ。
四人とも素敵だった。
いままで会った人達の中で、この四人とは凄く仲良くなれそうな気が、なんとなくだけれど、確実にしていた。
俺みたいな人間が、この四人に加わっていいのかと不安に思うぐらい、みんなとの会話は楽しくて、ほんの一時間の会話が、俺の平凡ないままでの人生よりよっぽど価値があるのではないかと思った。

それでも、一つだけ気になること。
みんな、この病棟に移ってから知り合ったのだろう。
こちらに移ってからの話しかしていない。
過去を、語らない。
病人なのだから、当然なにかしら原因があってここにいるわけで、過去の話をするのは嫌なのかもしれない。
俺は疑問に思ったが、今のこの五人の仲に過去は関係ない。
本当に仲良くなれそうなだけに、知りたくもあったけれど、俺は聞かないようにすることにした。
(きっとこうやって暗黙の了解みたいなのが守られていくんだろうな。)
そう思っていると、マコが俺に、
「シュウは体、どこが悪いの?」
と、あっさり聞いてきた。
過去はNGでも、現在の話題はどんなものでも問題ないらしい。
「うーん。俺、なんも聞かされてないから、分かんないんだよね。
 まあ、こっちに移ったから、大丈夫だとは思うけど。」
そう答えると、みんなキョトンと目を丸くしている。
何言ってんの?という顔だ。
「ん…どうしたの?」
少し怖くなって、咄嗟に前にいたアヤに聞いてしまう。
「シュウ…、なんで、大丈夫だと思ったの?」
アヤが、ゆったりとした口調で、質問で返してきた。
「え……だって、ここって退院間近の患者がくるトコじゃないの?
 みんなフツーに元気だし…。」
俺は、思っていたことをそのまま言った。
少し空気が固まって、わずかだけれど沈黙が生まれた。
すると、ダイスケがわざとらしく溜め息をして、俺に言った。
「この病棟、なんて呼ばれてるか知ってるか?
 Z棟だよ。ズィー棟。
Aから始まってZで終わる、アルファベットのZ。
この後はもうないですよー、ってこと。」
淡々と口にし、一拍置いて言った。
「つまりな…。
 この病棟に連れてこられたってことは、もういろんな病気の末期ってやつで、助かる見込みがないってことだよ。
 このテープ、前ここにいた人なんか、『死の輪』って呼んでた。
 もう諦めなさいって印。」

「よくしゃべる口だな。ガーゼ詰め込んで、包帯で塞いでやろうか。」
「へっ。やれるもんならやってみろや。」
「看護士さーん。」
「おいっ!」
コウは急に知らせるのはまずかったとでも思ったのか、わざとふざけて、この場を和ませようとしてくれた。
けれど、急に俺の耳に届いた、ほとんど死亡宣告に近いこの事実に、俺は小さくはない目眩を、確かに感じていた。

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