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2010/05/25 (Tue) No.22 僕と君の3ミリ

-断片集-
No.22 僕と君の3ミリ

あれは大学生になったばかりのことだ。
高校を卒業して、離れ離れになったけれど、僕と君の関係は変わらなかった。

大学生になって初めてのデートということで、僕は少し格好をつけて君を美術館へと連れて行った。
二人とも、美術品の類の知識は持ち合わせていなかったから、単純に視界から受ける刺激に感動していた。

西洋画の立体的な迫力には興奮したし、彫刻の精密さには知れず溜息が洩れた。

こんな場所に来るのは初めてだったものだから、不安も多分にあったけれど、結局こういうデートもいいもんだねと笑い合った。

そんな中で、特に印象に残った作品があった。
それは大きなガラスのオブジェクト。
ちょっと歪んだ丸が二つ並べてある。

小さなへこみや、ゆるやかなカーブがぴたりと一致している、二つの丸。

僕たちは、何故かそのオブジェクトの前で立ち止まっていた。
どちらも感嘆の言葉を口にするわけでもなく、けれど一瞥して歩き出すわけでもなく。

「何か、いいよね」

暫くして、君がぼそっと言った。
そうなんだ。素人の僕たちは「何かいい」としか感じることができない。
単純にその「何か」をこのオブジェクトからは強く感じるんだ。

ぼーっとしたままだった視線を、ゆっくり下へと向けると、小さく書かれた解説があった。

僕はそれを読み上げる。

「男女のすれ違いを表現した、二つの円。
 一見、その殆どが一致しているようだが、僅かなずれが生じている。
 それは微かなものだが、どうあっても重なることはない。
 無理に合わせようとすれば、ガラスが忽ち砕けてしまうのである」

一通り読みあげると、君が小さく叫んだ。

「本当。ここだけ形が違う」

君が指さす場所を、目を凝らして見てみる。

それは、本当に僅かな違いだった。
片方はほんの少し出っ張っていて、もう片方はほんの少し引っ込んでいる。

僕は、切ないと思った。
ただこれだけの差が、二人の間にすれ違いを生むのか。

隣を見ると、君と目が合った。
何を言えばいいのだろう。

「僕たちは、大丈夫だよね」

やっとのことで絞り出した言葉。
確認。僕たちは、そのずれを、違いを、愛することができるのか。

「もちろん」

君は、にこりと笑いながら答えた。
流石、君だ。





美術品というのは、各地の美術館を移動するものらしい。
何度か訪ねたけれど、あのガラスのオブジェクトに出会うことはなかった。




あれから何年も過ぎて。
ふと目に入った、一枚のポスター。
それは新しく設立される、美術館のものだった。
化粧品の会社が運営しているようで、自社製品の歴史と共に、社長が趣味で集めたものを展示するらしい。

いくつか紹介されている中、目にとまった作品があった。
それは、いつか見た二つの円。
何か運命のようなものを感じた。呼ばれているような、そんな気配が。

週末、僕は美術館に向かった。
入ったとたん、ガラス張りの空間がぐわあっと広がっていて、化粧品会社らしく洒落ていると感じた。

あの作品はどこなのだろう。
二つの円だけを目指して、僕はずんずん進む。

後で気づいたけれど、焦るあまりパンフレットを受け取り忘れていた。
きちんと受け取っておけば、すぐに位置が分かるのに。

それでも、僕は大丈夫だと思った。
自分が進む先で、待ってくれている気がした。

そして。

僕は、辿り着いた。
ガラスで作られた、少し歪んだ二つの円。
なぜだかこの作品だけは、少し広まった場所に置かれていた。
収集好きの社長も、この作品を気に入っているのだろうか。

そんなことを考えながら、鑑賞しやすいよう設けられたベンチに腰を落ち着かせる。
あのとき君が見つけた違い。最初から分かっていると、少し離れたここからも確認できた。

ゆったりとした時間が過ぎてゆく。

もうどれくらい眺めていただろう。

僕は未だ見つめていた。ガラスの円を見ているのか、想い出を見ているのか、分からなくなっていたけれど。

隣で、ぽすっと軽い音がした。
ベンチは殆ど空いているのに。

甘い香水の香りが漂った。
どこかで嗅いだことがある。僕は少し頭を巡らせた。

ああ、そうだ。
ここに来るまでに迷い込んだ、化粧品の展示コーナー。
歩いていて、ふと思ったんだ。
君の好きそうな、甘い香りだと。



僕はまた、目の前の円に意識を移す。



僕は、切ないと思った。
ただあれだけの差が、二人の間にすれ違いを生むのだ。


あくびを一つする。隣でも小さく一つ。
少し伸びをする。隣では咳ばらい。


互いにタイミングを図っていたというのに。
いざ口を開くと、声が、重なった。


「「久しぶり」」



久しぶりに小説を載せてみました。
今回は可能な限りコンパクトにしようと。実際とても短い。描写少ない。
自分の中だけの勝手な設定が多すぎる作品です。
読んでいただく中で、いろいろ妄想していただけるとありがたいです。笑

それでは。
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comment











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こんばんは!そしてお久しぶりです、春です*^^*
やっぱり黒目さんの文章は好きだなぁと、しみじみしちゃいました。
テンポというか、なんか、空気を感じます。
あらためまして、おかえりなさい*^^*
また遊びに来させて下さいね!更新、楽しみにしてます☆
(メッセージもありがとうございました!)

2010/05/26 00:22 | [ 編集 ]


 

おはようございます。
こういう雰囲気は大好きです。
描写がいいですね。イメージがくっきり浮かびます。
人間関係は、難しい。わずかな考え方の違いが大きな溝をつくることもあれば、お互い補おうと歩み寄ることもある。
爽やかな気持ちになりました。

2010/05/26 09:25 | [ 編集 ]


 

>春さん
お久しぶりです!ただいまです!
今回はとにかくさくっとさらっとを意識したので、テンポが良いのかもです。
好き、といわれると素直に嬉しい!同時に少し恥ずかしかったり。笑

メッセージの方ですが、とても丁寧な返信ありがとうございました。
改めて春さんは素晴らしい方だと感じました。リスペクト!

こちらこそ、これからもよろしくお願いしますね!

2010/05/26 22:18 | 黒目 [ 編集 ]


 

>篁さん
正直あのオブジェクトとか、美術館の雰囲気とか、上手く伝わっているか不安だったので、そう言っていただけると嬉しいです!
実際、ひと月ほど前に美術館に行ったので、その経験を生かして書いてみました。

人間関係、難しいですよね。
恋人となったら特に。

互いに思い合って、その違いを認めていくことを「愛」と呼ぶ・・・のかな?
書いていて、そんなふうに思いました。

2010/05/26 22:25 | 黒目 [ 編集 ]


 

はじめまして、こんにちは水聖と申します。
すてきなお話ですね。

せつなさとさわやかさを感じます。

数年たって、きっと成長したであろう二人
わずかな違いを認め合えるようになっているであろうと信じています。

2010/06/01 17:42 | 水聖 [ 編集 ]


 

>水聖さん
二か月も遅れての返信、本当に申し訳ありません!!
せっかくコメントを頂いていたのに・・・本当にごめんなさい!

小説の感想、ありがとうございました!
作品内では、別れてから再開した二人で描写は止まっています。はっきりしない僕のいつもの文です。笑

最後まで書ききることがあまりない僕の作品たちですが、こういったふわふわとしたものをこれからも書けたらなと思います。

水聖さん、非常に遅れての返信、申し訳ありませんでしたっ
もしよろしければ、またいらっしゃってください!

2010/08/06 01:18 | 黒目 [ 編集 ]


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