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2010/04/11 (Sun) No.21 汚いお姫様

-断片集-
No.21 汚いお姫様

すうっと煙を肺まで流し込む。
紫色で満たされた後、ゆっくり吐き出す。
喉元を這い上がってくる瞬間、頭にくらくらとした衝撃が走る。

たまらない感覚。

堕落した生活の中で、私はこうも腐ってしまったのか。

電子音が、四方八方を跳ね返りながら耳穴に飛び込んでくる。

五月蠅い。五月蠅い。五月蠅い。

ならば出ていけばいい。簡単なこと。
それでも出来ない。今の私は、ゆったりと腐りながらこの場にしがみ付くことしかできない。

細長い照明が、舐めるようにホールの中を周っていく。
妖しい暗闇の中、踊り狂う人々が一瞬だけ照らされ、また黒につぶされる。

馬鹿だ。

あいつらは本能のまま、人間であることを捨てて、踊っているのだ。

私は断じて違う。
この場所から傍観しているのだ。

ただ行くあてがないものだから、暇つぶしに煙を吸って、吐いて、眺めているだけ。

淀んだ空気に、汚い煙は簡単に混ざり合った。
もくもくと形を変え、最後には吐きだした本人の髪にゆっくり着地して、その臭いを染み込ませる。

ここから出たら5分もたたないうちに、警察に捕まるだろう。
今は随分と厳しくなっているだろうから。

どういうわけかこの場所だけは安全だった。
どうせ何か汚い裏の理由があるのだろうけれど。

もう寝ることにしよう。なんだか疲れている。
次で最後にしようと、いつもより深く吸う。
一杯になって、鼻のほうへと漏れ出てくる煙。
思いっきり吐くと、塊になった紫色が空中で笑っていた。

知らないよ。私は何も知らない。
これ以外の生き方を、私は知らないんだよ。

「君は踊らないの?」

横になった私に、語りかけてきた男がいた。
私は不機嫌そうな顔を作って、ゆっくり起き上る。

男はなれなれしく隣に座ってきた。
積み上げられた吸殻を見て、苦笑いを浮かべている。

「こんな不味いもの、よく吸えるね」

私はさらに顔を不機嫌そうにする。

「鬱陶しい。あっち行って」

「そう言わずにさ。踊らない?」

「踊らない」

すぐに答えて、深く座りなおす。
この体勢のまま寝てしまおう。

腕を組もうとしたとき、右手をいきなり掴まれた。

「出よ」

びっくりして目を開くと、満面の笑みを浮かべた男の顔があった。

そのまま引っ張られる。
立ち上がること自体久しぶりで、転んでしまいそうになる。
もう片方の手で、男は私の身体を支えた。

「随分細いな。骨だけみたいだ」

「う、うるさい」

「ふふ、さあ、行こ」

抵抗する間もなく、男は私を出入り口へと引っ張っていく。
足を動かすタイミングがよく分からなくて、一歩の動作の度に転びそうだった。

「ちょっと待ってよ」

叫んでやりたかったけれど、喉の調子もずっと悪かった。声が出ない。

「大丈夫だよ。俺にまかせて」

何なのだ。まかせるも何も、私はお前を知らない。
ここから外に出て、生きる術も知らない。
私を、どうする気なんだ。

何も言えないまま、男とともに外に出た。
何年ぶりかの外気。
けれどそれは中と大して変わらず、淀んだ重いものだった。

私と男は歩いた。
灰色で塗り固められた地面の上を。
灰色で組み上げられた建物の脇を。
灰色に染め上げられた天井の下を。

だんだんと歩き方を思い出す。
少しずつ速度が上がって、小走りのような格好になる。

分かっている。早くしないと、捕まる。

私の不安を嗅ぎ取ったのか、男はこちらに向き直って、また満面の笑みを作った。

「よいしょ」

急に男の姿が消えたと思ったら、後ろに回り込んでいて、それに気付いたときには私の身体は持ち上げられていた。

あれだ、と私はすぐに思った。

お姫様だっこ。

「いくぞお」

そんなに私の身体は軽いのだろうか。
何の苦もなさそうに、男は私を抱えたまま走る。

曲がったガードレールを跳び越え、細い路地裏をくぐり抜け、走る、走る。

抱えられながら、私はずっと思い出していた。
いろいろな部分に靄がかかっていて、所々が欠けていて、とてもおぼろげな記憶だったけれど。
私が汚れていなかった頃。好きあっていた彼。

顔が思い出せないよ。あんなに好きだったのに。
声が思い出せないよ。あんなに好きだったのに。

それでも、男が駆ける度、私の身体が揺れる度、少しずつ、少しずつ浮かび上がってくる。

そうだ。馬鹿な約束をした。
恥ずかしい、口にするだけで赤面してしまうような。
けれど、私と彼は、それを何の臆面もなく交わせるような、そんな関係だったのだ。

どんな約束だったっけ。

一つ揺れれば、一つ靄が晴れて、一つ欠片が戻ってくる。
私は下から男の顔を見上げた。
相変わらずの笑顔。
見ていると、なんだかほっとしてしまう。

だんだんと、じんわり私の中身が見えてきた。
寂れていた記憶が、鮮やかになってくる。

はっとする。

そうだ。今ちょうど、あの約束を果たしているのだ。

『私をお姫様だっこして、街中を走ってよ』

なぜこんなことを思いついたんだっけ。
読んでいた漫画かなにかに憧れていたのかな。

くすりと笑いながら、もう一度男の顔を見上げる。

揺られる中で、気付いていた。


男は、彼だった。
間違いなく、好きあっていた、彼だった。

「降ろして」

そう言うと、彼はすぐに私の身体を地に降ろした。
私のこんなところもよく理解しているのだろう。

私は彼が好きで、彼は私が好き。

だから。

だから、私は拒絶しなければならない。

腐った私を、未だに気にかけてくる彼を。
何年も前と全く同じの、穏やかな笑顔を振りまいてくる彼を。

「私と一緒にいたら、駄目だよ」

悲しそうな表情を浮かべる彼。
ずるい。今こそ笑ってくれなきゃいけないときなのに。

こちらに一歩近づいてきて、彼は言う。

「何年も、待っていたんだよ」

「ごめんなさい」

「やっと、会えたんだよ」

「ごめんなさい」

私は俯いてしまう。泣いてしまいそうだった。

もう一歩近づく。顔は目の前だ。

彼が手を伸ばした。
ぼさぼさの私の髪を、軽く撫でて整えてくれる。

やめて欲しい。
その髪は汚れているから。
彼が嫌った、あの臭いが染み付いているから。

涙が出てきた。一筋だけ。後は我慢する。
唇を噛みしめる。血の味がした。

ふっと、一瞬息が止まった。
目を見開く。
彼が、私の細い身体を抱きしめていた。

とても強い力。
離さない、そう言われている気がした。

髪に頬を擦り合わせてくる。
嫌いじゃないの?
もう一度、好きあってもいいの?

こちらから声をかけようとしたとき、サイレンの音が響いた。
遠くで鳴ったはずなのに、ぐんぐん近づいてくる。

また一瞬息が止まったと思ったら、お姫様だっこの形に戻っていた。

溜めていた涙が溢れる。

離してとは言えなかった。
声も満足に出ないのに、涙がぼろぼろとこぼれているこの状態で、言えるわけがなかった。

「いくぞお」

彼は勝手だった。私と同じくらい勝手だった。

彼の胸の中でうずくまりながら、服を強く掴んだ。
清潔な香り。かつて嗅いでいた、懐かしい彼の香り。

汚れてしまった私との違いを理解してしまって苦しい。
それでも彼は、私を連れていくのだろう。

警察を出し抜いて、追手を振り切って。私を知らない何処かまで、連れていくのだろう。

私の身体は本当に軽いのだろうか。
何の苦もなく走っている彼だったけれど。

その目には、薄く涙が浮いていて。
唇を噛みしめて、こぼれるのを我慢していた。

「ありがとう」

私はそうつぶやいて、彼の胸に頬を付ける。

この香りに包まれていよう。
染み付いてしまった汚れが落ちるまで、彼に包まれていよう。

そして、いつか。

いつかでいいから。

全部を謝って、償って。

綺麗な衣装を着て。彼はいつも以上の笑顔で。

周りの人たちが顔を赤くしてしまうくらいに。

お姫様だっこをしてもらいながら、街中を走ろう。

彼はきっと約束してくれる。何の臆面もなく。

私と彼は、そういう関係なのだ。



題材[淀んだ,踊り子,目覚める,]シリアスな感じでやってみよう! http://shindanmaker.com/9025 #sdai

と、ツイッターのお題メーカー?で出たので書いてみました。
踊り子ってなんか違うとか、シリアス?とかは気にしないでください。笑
内容が薄く、あっさりしすぎてはいますが、自分では好きな作品になりました。
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めっちゃいい★
俺も好きだよ!!

2010/04/12 00:23 | ゆうと [ 編集 ]


 

>ゆうと
ありがとー!!
もやもやしたものが残ってる気もしないでもないけど、今回はすごい満足してる。なんでだろw
詰まってるとき、お題ありでやると書けたりする。
ツイッターのお題メーカー楽しいから、よかったらやってみてb

2010/04/12 22:08 | 黒目 [ 編集 ]


 

白昼夢のような世界観がいい味になってますね!
「追われる2人」っていう設定すごい好きです、憧れます。
「約束」が2人の間にあるっていうのも。

出だしが煙草だったのですごい共感しました。
ちょっと一服してきます・・・

2010/04/13 19:45 | ツーヨン [ 編集 ]


 

久しぶりです。
ちょっと忙しくてブログの更新も怠けてました。
追われる理由がなんであれ、ようやく「今」から抜けだそうとする彼女。そして待っていた男。
気持ちの良い作品ですね。

2010/04/14 11:35 | [ 編集 ]


 

>ツーヨンさん
世界観はそうとうあやふやな状態で書いてましたね。逆に定まってないままふらふら書けてよかったと思ってます。笑
「約束」好きです。王道設定だけど、やっぱり素敵ですよね。

イメージは煙草ですけど、まあこれもあやふやな感じで汗
ドラッグとかかもしれないです。とにかく堕落した主人公の象徴。

>ちょっと一服してきます・・・
お身体にわるry

2010/04/14 23:47 | 黒目 [ 編集 ]


 

>篁さん
話自体は本当に単純です。
お題を出来るだけ取り入れて、これだけ削ぎ落とせて書けると気分がよかったです。笑
普段だったらもっとごちゃごちゃ余分なもの詰め込むんですけどね・・・
いろいろ考えもしましたが、極力入れないようにしてみました。

やっぱりこの時期はみなさん忙しいですよね。
自分もまだまだまったり更新ですが、お互い頑張っていきましょーb

2010/04/14 23:52 | 黒目 [ 編集 ]


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