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2010/03/22 (Mon) No.20 終わらない雨

-断片集-
No.20 終わらない雨

ぽつっ。ぽつっ。ぽつつっ。

ビニールの天井に雨が当たる音が心地良い。
同じテンポで鳴るかと思ったら、時々大きな粒が弾けるのも、どこか愛らしい。

雨は好きだけれど、君が困ってしまうのはいただけない。
僕は寒いのなんて平気だし、傘を持たずに走り抜けるのも問題ないけれど、君が風邪を引いてしまうのは嫌だ。

僕は相変わらずこの場所に佇んでいるけれど、それが気がかりで少し複雑だった。

折角やってきた春の香りも、雨で打ち消されている。
言うまでもなく僕は雨の匂いが好きなのだけれど、喜ぶ人は少ないだろう。


ぽっ。ぽっ。ぽつっ。

ああ、止んできた。
先程とは逆の複雑な気持ちで、僕は遠ざかっていく雨を見つめる。

そろそろかな。

ぱしゃぱしゃと、水が薄く乗ったコンクリートを蹴り上げる音が響く。
足音は沢山あるし、ごうごうとした車の音も混じっているけれど、君の音を聴き間違える訳がない。

ぱっと、君の顔が目の前に現れた。

はあはあと、荒れた呼吸を整えようとしている。
春が近いというのに、ひとかたまりになって出てくる息は少し白みを帯びていた。
前髪は少し濡れて、おでこに貼りついてしまっている。

傘を持っていなかったのだろう。雨が弱くなったからと、走ってきたのか。
きっとそうだ。君は昔から楽観的なところがあった。天気予報なんて気にしない。
そのくせ行動力は人一倍あるものだから、よく振り回されたものだ。


何か拭くものを渡したいところだけれど、君はすぐに笑顔をつくって、なにやら鞄をあさり始めた。


コトッと軽い音をたてて、君は紙のボトルを置いた。
ああ、これは僕の大好きなお菓子。


続けてあさりながら、君は言う。

「あなたって、雨が好きだったよね?」
こくりと頷く。何を今更。


コトッとまた軽い音が鳴る。
ああ、今度は僕の大好きなお酒。
今日は随分と豪華だな。


君はまだ何かを探しながら、言う。

「私は好きでも嫌いでもないけどね」
何が言いたいんだ?僕は小首を傾げる。


パサッと、最後は違う音がした。
ああ、これは。これは。
僕が大好きで、大嫌いな、花。
君がいつも持ってきてくれるけれど、それ故に僕を認識してしまう花。


君は手を止めて、こちらを見つめながら言う。

「きっと。あれでしょ。私たちの始まりが雨の日だったから」
そうだよ。僕はロマンチストだから。

「それでも私は好きでも嫌いでもないな。好き半分、嫌い半分」
そうかい。どちらも僕の所為かな。


君は両手を重ねて、ぐっと伸びをする。
先程までの雨が嘘のように、空は青く晴れ渡っていた。


「もう何年だっけ・・・」
六年くらい。

「時々すごく寂しくなるんだ」
ごめん。

「このままでいるのは、良いことなのかな」
どういうこと?


君はぐっとこちらを見つめる。涙が滲んでいるのが分かった。


「あなたのことは、ずっと愛してる」
知ってるよ。

「ずっと愛してるよ」
知ってるよ。

「本当に、心の底から愛してる」
知ってるよ。僕もだから。


とうとう涙は君の目の端から落ちてきた。
ポタッと、地面に触れて弾ける。
どうしてだろう。同じ水の粒なのに、この音は好きじゃない。


「私、幸せになってもいいのかな」


その言葉に、僕は答えられなかった。
そう。こうして僕にずっと縛られているのは、君の幸せじゃない。そんなことは僕も理解している。

さっきまでの僕の返事は、君の耳には届いていない。
この声は、君の鼓膜を震わせることはできないんだ。

黙っていても、叫んでも同じ。
分かっているけれど、僕は気持ちをしまいこんで、洩らさなかった。
たとえ届かないとしても、口に出したらいけないと思った。


僕と一緒にいて。君の傍に居られなくなった僕だけれど、ずっと一緒にいて。


破裂しそうな想い。だけど、これはただの我侭なんだ。
死んでしまった僕に、そんな資格はないんだ。


「もし、私が他の人と結ばれたとしても。あなたは、祝福してくれる?」

もちろん!

そう叫びたかった。叫ばなければいけなかった。
届かなくても、苦しくても。君を、僕の手で解放してあげなければいけなかった。
それなのに僕は、唇を震わせながら、傍らに置かれた花を見つめていた。


君は涙を溢しながら、目一杯の笑顔をこちらに振りまいた。

「さようなら」
音にはなっていなかったけれど、君の口は確かにそう動いた。

君は背を向けて歩き出す。遠ざかる君。
ああ、ああ、ああ。
もう終わりなのか。僕と君は、もう終わりなのか。



僕は、走った。
僕が死んでしまったあの場所から、僕は初めて離れた。

あの雨の日、僕は事故で死んだ。
それでも、僕は雨の日が好きだった。
君との日々が始まったのは、雨の日だったから。
雨の音が、匂いが、全てを覚えていてくれたから。

そうだよ。僕は、ロマンチストだから。


軽いのか、重いのか、自分でもよく分からない身体をひたすらに動かす。
待って欲しい。消えないで、ずっと留まっていた僕の想いを、どうか聞いて欲しい。

死んでいるというのに、息が苦しい。
死んでいるというのに、涙が止まらない。
死んでいるというのに、愛しくて堪らない。

近付く君の背中。
どこか儚げな背中。

僕は一瞬迷って、けれど決断して、両の手を伸ばす。


後ろから、思い切り抱きしめるつもりだった。
この手で、もう一度君の温もりを感じたかった。

なのに。
僕の手は君に触れることはなく、何もない向こう側へとすり抜けていった。
走ってきた勢いが余っていて、僕は派手に転んでしまう。

君は何かを感じ取ったのか、僕が走ってきた方を振り返った。

違うよ、今は君の前にいるんだ。君の前で、濡れた地面にへばりついている。

何もないことを確認して、君は前に向き直る。
目が合った。君には見えていないのは分かっているけれど、僕はどこか照れ臭くなってしまう。

にこりと、君が笑った気がした。

再び歩き始める君。
近付いてくる。
君は躊躇うことなく歩を進める。

足が僕の身体と重なった。
けれど、君のつま先が捕えるのは、コンクリートの地面で。
一歩一歩、僕の身体をすり抜けて。
君は去っていった。


曇りだす空。
戻ってきた雨。


僕はまだ雨を好きでいられるだろうか。
肌に落ちる感覚も、冷たさも、僕の身体には届かない。

それでも僕は、雨を好きでいられるだろうか。

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comment











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>「もう何年だっけ・・・」
>六年くらい。
ここでピンと来ました。ちょっと気づくの遅かったです。
そのぶん「そんな・・・」って気持ちが強い
死者の想いってやっぱりあるんですかね。
あれば素敵ですけど、その分キツイ部分も出てきますね・・・

2010/03/22 21:24 | ホチ [ 編集 ]


 

切ないですね。
僕も雨が降る直前の、なんとなく分かるあの香りが好きです。
死んだ後も心は現世に残るのでしょうか?
残るとしたら苦しいですよね。
残された者の幸福を願いつつ、置き去りにされていく寂寥感。
切ないですが、素敵な短編ですね。

2010/03/23 13:12 | [ 編集 ]


 

ちらと覗きにきました。
着々と新作upされていますね!
黒目さんの切なさと愛おしさの伝わる作品が好きです。
愛しい人の存在は、自分を強くもさせてくれ、また時に弱くもさせられるものだと思います。

さて黒目さんにプレゼントが。中身は見てのお楽しみ。(笑)
http://rabz.web.fc2.com/gift.htm

2010/03/23 21:39 | 藍 [ 編集 ]


 

>ホチさん
最初は、死んでいるということを、明言しないまま終わろうと考えていました。「僕」が動物の類なのでは?と思わせるミスリード的な進め方をしようとしていたら挫折しまして・・・w
今回は互いに未練があるようで、でもやっぱり形無いものはそう簡単に伝わらない、「僕」にとってはキツイ話です。
最後は書いてて、幸せルートにしようか散々悩んでました。
死者の想いというのは、どうしても考えこんでしまうものですよね。

2010/03/24 11:07 | 黒目 [ 編集 ]


 

>篁さん
雨の香りって独特ですよね。先程降っていましたが、つい窓を開けてしまいました。笑
死んだ後のことは、誰もが疑問に思うことですよね。
今回は、最後想いを届けられなかった「僕」が消えることもできずに、すり抜けていく雨に打たれているというシーンが書きたかったのです。
段々と悲しくなってきて、悩みまくりましたが。笑
「墓」でなく、「事故現場」から離れられないというのもちょっとしたポイントになったかと勝手に思ってます。

ちょっと自分の短編はワンパターンな気がしていたので、素敵だなんていわれるともの凄く嬉しいです!
次も良い作品が載せられるように頑張りますー!

2010/03/24 11:18 | 黒目 [ 編集 ]


 

>藍さん
藍さんだー!!
いらっしゃいませっ!
春休みを利用して、まったり更新中です。笑
「切なさと愛おしさが伝わる」なんて、テンション挙がりすぎて爆発するくらいの褒め言葉ありがとうございます!
こちらももう少し気を利かせて、ハッピーな作品を載っけておけばよかったのですが・・・汗

プレゼント、拝見させていただきましたーー!!
すっごいです!絵の方もこんなに素晴らしいとは・・・!!
ホント、自分には勿体無いくらいの贈り物、ありがとうございます。
眺めてるとなんだか涙が出てきてしまうくらい嬉しいです!

ブログ、これからもきちんと続けていこうと、改めて思いました。
テンション上がりすぎて文がめちゃくちゃになってしまってますが、今ものすごいあったかい気持ちです。
藍さん、本当に、本当にありがとうございます!
これからも頑張りますっ!!!

2010/03/24 11:33 | 黒目 [ 編集 ]


 

「死んでしまった僕」のところまで「僕」が死んでいることに気がつきませんでした。
以前、猫視点の詩を書いていらしたので色々想像しながら読んでみたのですが良い意味で突き放す感じの展開が面白く、また綺麗だと感じました!

留まり続ける「僕」の想いっていうのは一途で綺麗な分、悲しいですね・・・

2010/03/24 19:29 | ツーヨン [ 編集 ]


 

>ツーヨンさん
猫視点で書いた「冬風の君」は、最後まで主人公の正体は明かさずに終わりましたが、あえて今回ははっきりさせました。
やはり最後のシーンが書きたかったので。

突き放してますよね・・・笑
ホント苦しみながら書いたので、綺麗だとも感じていただけると、すごく嬉しいです!

2010/03/26 18:07 | 黒目 [ 編集 ]


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