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2008/12/09 (Tue) No.1 まわる

毎日更新は無理。
いや、いきなりこんな出だしだけど、とりあえずはちょくちょく更新頑張りますんで応援ヨロシク。

今日はやっとこさネヴァーストアのセカンドアルバム買った。
リアルに金がないです。
日記終了。(あ

とりあえず、超短編集的な感じで、よく分からん小説のような、詩のようなものを載せていきます。

パッと思いついた物事を手当たりしだい出力していこうと。
そんな短編?いや断片集。

ネタ帳とも言えるのかもしれない。
とにかく俺の中で生まれたことを形にしようというだけなので、面白くはないです(笑

それでわ。


-断片集-
No.1 まわる

「この地球は、時速1000km以上で動いているんだよ。」
いきなり、あいつはこう言った。
ずっと机に突っ伏し、つまらなそうな顔をし続けていた俺に。
「随分と退屈そうだね。
 もっと楽しみなよ。」
こちらが無視をしても、妙な笑顔でこちらへと話しかけてくる。
「・・・何をだよ。」
いいかげん鬱陶しかったが、いつまでもこのまま話しかけられていたら気が狂ってしまうようだったので、とりあえず聞き返す。
「だから、今僕たちがこうして立っている地球は、ものすごい速度で動いているんだよ。」
何を言っているんだ、こいつは。
変人なのか、こちらに喧嘩を売っているのか。
俺は少し口調を荒げて、
「それがどうした。」
と言った。
すると、その返答が余りにも意外なもののように、目を丸くさせたあいつ。
一瞬の驚きの後、すぐに俺へとあたふたと話し始める。
「だって、僕たちはこの地球上にあるどの乗り物よりも早い、この地球に乗っているんだよ。
 どんな遊園地に行ったって、決して見つけることの出来ないエキサイティングな乗り物なんだ。」
いい加減にしてくれ。
なんで俺がこんなキチガイな野郎の話を聞かなければいけないのだ。
一発殴ってしまえばおとなしくなるだろうか。
いや、入学早々問題を起こすのも気が引ける・・・。
俺が自分の理性を保つのに必死になっているのにもかかわらず、あいつはずっと俺に向かって話してくる。
俺は逃避方法として、再び机に突っ伏して眠ることを選んだ。
あいつの声が睡眠を妨害しようとするが、人間本気になれば雑音さえ子守唄に変えられるものだ。
ゆっくりと眠りのあの不思議な浮遊感が俺を支配し始めて、意識の境目を知らずの内に越える。
ああ、この瞬間が一番幸せだ・・・。
そう思った瞬間。
頭をパンッと乾いた衝撃に襲われ、一気に現実に引き戻される。
あいつが叩いたのだ。
散々俺をイラつかせた挙句に、そちらから叩くとは。
怒りがピークに達した俺は、乱暴に立ち上がり、
「いい加減にしろよ!」
と叫んだ。
入学初日の休み時間とだけあって、ぎこちない調子でも、必死に親しくなろうと会話を続けていた連中が、一斉に俺を注目し、静かになる。
俺はそんな状況などお構いなしに、怒りの元凶へと拳を振り上げる。
中途半端な寝起きの俺のぼやけた目に、意外なほど芯の通った眼差しで俺を見つめるあいつの姿が映った。
その目は綺麗な光を灯していたものの、全てを見透かすようで、それほどに真っ直ぐに見つめられたことは、いままで経験したことがなかった。
振り上げた拳は頂点で止まったまま、全く動かなかった。
その様子も変わらず見つめたまま、あいつはさっきとは打って変わって、重く、ゆっくりと言った。
「君は、止まっているんだ。
 この限りなく変化を続ける高速の世界で、君はただしがみついて駄々をこねている。」
訳が分からなかった。
なんで、初対面のやつにこんなことを言われなくてはいけないのだ。
この状況は、余りにも理不尽で、俺にとってなにも得がないではないか。
けれど、相変わらず俺の拳は止まったままで、あいつの話をおとなしく聞こうとしていた。
「受身では駄目だ。
 あっという間に君は置いてけぼりになってしまう。
 ちゃんと乗りこなしてみてよ、このほしを。
 そうすれば、この世界の本質が、初めて見るものだときっと気付くだろう。」
変人だ。
俺からみても、周りからみても。
キチガイ以外のなにものでもない。
どうしてこんなやつに説教じみたことを言われなければいけない。
大体俺のことを何も知らないくせに。
あまりにも脈絡がなく、納得のいかないこの状況に、あきれて何もいえない。
しかし、あいつのほうを見ると、またあの真っ直ぐな眼差しに射抜かれる。
なんなんだ、こいつは。
なにか普通の言葉とは違う、重みのようなものを感じずにはいられなかった。
しばらくして、一度ため息をついた後。
拳を下ろし、今度は少し笑って、自分の名前を言った。
もしかしたら、これが俺を変えるきっかけかもしれない。
先ほどは怒って殴る寸前だったのに、今度は急ににこやかに自己紹介をしている俺。
これで、俺も変人の仲間入りだろう。
あいつは、俺にありったけの笑顔を返して、手を握ってきた。
俺はしっかりとそれを握り返す。
こいつは変人で、キチガイだ。
だけど、だからこそ他のやつらとは違う、意味のあるものを持っているのかもしれない。
とりあえずは、話でも聞いてやるか。
こんな変わったスタートを切るのも、悪くはないのかもしれない。
俺はそんなことを思って、握り続けている手によりいっそう力を込めた。

「んで、地球がどうしたって?――――」



はい、自分でも全く意味の分からんものができました。
記事投稿のところでそのまま打って載せてて、文体とか流れとか全く考えていないので、なんとなく雰囲気だけでも。
とりあえず今回は、「地球ってすごいんだね」ってことです(笑
またなんか思いついたら書くんでちょくちょく見にきてやってくださいなー

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断片集 | trackback(0) | comment(3) |


2008/12/15 (Mon) No.2 口径 is 9mm

短編打ち込み開始。
閃きで一気に書くのが中々面白い。
この部分かいてる段階では、書き手も読み手も結末の分からない同じ立ち位置ってのは、結構素敵じゃないでしょうか?
文章は荒くなるかもですが、よろしく!


-断片集-
No.2 口径 is 9mm


目に痛む白い光が灯されている部屋。
これほどまでに明るく照らしても、どうにも暗闇のぬぐえない部屋。
俺は、ここに閉じこもっていた。
外はもうクリスマスで浮かれ騒いでいるというのに、俺はいつものように暗い顔をしている。
思えば、もう一年になるのか。
ちょうど去年の今頃だったろう。
人生を黒で塗りつぶしたかのような、こんな暗い生活が始まったのは。
なにが原因だったかとするならば、全てだろう。
待ちわびていたキャンパスライフが始まり、寮生活が始まり、本当に新しいスタートを切った。
けれど、想像していたものとはかけ離れた講義、サークル、先輩、友人。
あの大学に入るまでに這いずり回ったあの時間はなんだったのだろう。
笑顔で無神経な応援を続ける親のためと、必死に一年間は頑張ろうとしたが、十二月を迎えたころに折れてしまった。
今もなお心配を続けてくれる親の顔は、この場所に留まり続ける俺への戒めにぴったりであったが、弱弱しい俺は、沸点を通り越し連絡もとらなくなった。
それでも送り続けられてくる食料や衣類に、最初は意地を張っていたものの、結局今ではこれに頼らないと生きていけないという、あまりにも情けない状態だった。

カチ、カチ、カチ。
時計は無情に時を刻み続ける。
まあ、過ぎ行く時間の所為にするには、塞ぎこむ時間が長すぎてしまった。
俺はどうすることも出来ず、ただただここで生き続けている。
カチ、カチ、カチ、カチッ。
秒針が跳ねていき、十二と重なる。
カチ。
十二月二十五日。
クリスマスに、なった。

相変わらず俺は虚を見つめ続け、意味もなく時間を過ごす。
ああ、またこうして長らえていくのかと、溜息をつこうとした瞬間。
「メリークリスマス。」
突然聞こえた声に、あまりにも驚いて咳き込んでしまう。
どこだ?どこから聞こえた?
混乱する俺に、再び声が降りてくる。
「こっち。こっち。」
ん?降りてくる?
そうだ、声は降りてきた。
ならば、この声の主は上に・・・
「―――!!!」
声が出なかった。
俺の目に映ったのは、少し宙に浮いたまま、ケラケラと笑って俺を見下す男だった。
しかし、男と分かったのは先ほどの声の音からであって、格好はピエロのメイクをした上にサンタクロースの衣装を着ているという、あまりに不気味な様子だった。
「やっと気付きましたね。はい、メリークリスマス。」
面と向かって聞くと、中々に齢を感じさせる声だった。
「メ、メリー、クリスマス・・・。」
やっと返した言葉がこれで、引き篭りすぎて少しいかれてしまったかと思った。
けれど、目の前に浮かぶ異常な光景には、意外と空想のものとは違うリアリティがあった。
確かに、目の前にこの男はいる。夢ではない。
根拠はないけれど、なぜか確信していた。
「憂いるアナタにプレゼントを差し上げましょう。聖なる夜に出会えた縁で。」
そう言うと、どこから取り出したのか、綺麗に包装された小箱をひょいっと投げて俺のほうへ寄越した。
広げた俺の手へと吸い込まれるように届いたその小箱は、俺の両手から少しこぼれるほどの大きさで、中身は空なのではないかというくらいに軽かった。
「・・・これは?」
恐る恐る、目の前のピエロかサンタの男に尋ねる。
男は相変わらずケラケラと笑いながら、頷いてみせた。
開けてみろ、ということだろうか。
俺は少し恐怖を感じながらも、小箱の包装を解いていく。
いつになく慎重に、丁寧に紙をはがす。
全てが解き終わり、箱を開ける。
「――――!」
中に入っていたものを見て、もう一度俺は声を失った。
そこに入っていたものは、黒く、圧迫感のある、あまりにも存在主張の激しい、銃だった。
実際の大きさよりはるかに大きく見えるそれは、先ほどの軽さとは打って変わってとても重く感じた。
恐ろしくもあるが、俺はこの銃に魅入られたかのように惹きつけられ、いつしか手にとってまじまじと見つめていた。
この男は、なにを企んでいるのだろう。
これを俺に使わせて、白い聖夜を紅に染めようとでも言うのか。
ニヤリと笑いながら、目の前に浮かぶ男を睨む。
そうすると、男はまたケラケラと笑った後、言った。
「それは、全てを壊すことの出来る銃です。
 モノだって、人だって、社会のルール、秩序さえも。
 使い手が願えば、その想いが弾丸としてその銃に込められます。
 しかし、一度しか使えませんからね。よ~く考えて使ってください。」
一息にそう言った後、一段と大きくケラケラと笑ったかと思ったら、いつの間にか俺の前から姿を消していた。
あまりの唐突さに、たちの悪い夢かと思ったが、手に握られた黒の重さが俺に現実だと再認識させた。
全てを、壊せる、か。
どうしようか。
あの男は、一度しか使えないから、よく考えろと言っていた。
しかし・・・。
俺の頭によぎるのは、今までの苦しみ以外のなにものでもない記憶。
嘲るように笑う人の顔。
打ちひしがれた俺の顔。
ぐるぐると俺の頭を駆け回る。
俺はもう、疲れたんだよ。
たとえ破壊によって今の状況が改善されても、俺は俺を生きることに疲れたんだ。
いや、違うな。
この、無機質で無情な世界で生きることに疲れたんだ。
無意識のうちに世の中へと失意の矛先を向け、俺は願う。
そうだ、俺の壊したいモノはただ一つ。
俺がこうして生きている、このセカイだ。
カチャッと軽い音がして、握っている黒が重さを増した。
弾丸が一つ確かに込められているのを手で理解した。
俺はこのセカイを作った神でも恨んだのだろうか、腕を天へと堂々と上げ、引き金を引こうとした。
だが。
俺の腕は一人でに曲がり、天へと向けられていた銃口は俺のこめかみへとくっついた。
ゴリッと銃口をこすり付けられる感触がして、頭が混乱していると、先ほどの声がする。
「うーん、つまらない。
 もっと苦悩して、もう少し面白い解を出すことを期待していたんですが。
 大体、アナタのような人にセカイが簡単に壊されていたら、大変なんですよ、いろいろと。
 天に向かって撃とうとしたときはヒヤリとしましたよ。」
姿は見せず、変わらない笑いを織り交ぜながらの声だった。
「くそ、所詮は化物の暇つぶしかよ・・・。
 だが、俺は誰かに命令されたり、動かされたりするのが一番キライなんだよ。
 テメェ見たいなクサレ道化に殺されてたまるか。」
俺はそう言って、ありったけの力を腕にこめ、銃を叩きつけた。
人ならぬものに逆らった所為か、片腕は使いものにならない状態になってしまった。
しかし、かまうものか。これから死ぬのだから。
あんな男によって殺されるくらいなら、俺は自分の意思で終わらせよう。
部屋に唯一ある小さな窓目がけて、俺は突進していく。
力いっぱい窓を開ける。力を入れすぎた所為で窓ガラスが割れていた。
気になる分けないだろう。俺は飛んだのだから。
ここは三階。
地面へとたどり着くのが、酷く、速かった。

ああ、さようなら――――。

「どうだったでしょうか?
 よく考えろって言ったのに、つまらない結果でしたね。
 私を悪魔のようだと思われるかもしれませんが、それもあながち間違っていないでしょう。
 結局のところ、ピエロなのかサンタなのか、ハッキリしませんでしたね。
 しかし、私も普通の人と同じように、本質は中、着飾るのは皮でありますよ。
 ・・・今回のような人間は、世を恨み、破壊の力ばかりを懇願します。
 けれど、破壊か創造かと問われたら、欲しいのは創造の力でしょう。
 嫌なものがあったら、壊さずに上から創ってしまえばいいのですから。
 心が乏しいものには、こちらに考えがおよばないでしょうなぁ。
 破壊と創造は表裏一体といってしまえば、それで終わりなのですが。
 今度はひげでも伸ばして、道化師の服を着て、創造を振りまいてみてもいいかもしれませんね。
 ところで、先ほどの破壊の銃。
 使わず終えるなど今までない例ゆえ、その場に残ってしまっていたのですが、部屋の片付けをしていた自称友人が見つけてしまいまして。
 これまた卑しそうな人相をしておられる。
 これをきっかけに、また一騒動ありそうですが、また今度の機会にでも。
 それでは、良い聖夜を。メリークリスマス。」

                          おわり

なんちゅう、ダーク作品でしょうか。
まあ、最初から狂気じみたものにしようとは考えていたけど。
もう少しで、クリスマス。
アナタのところに、破壊or創造がもたらされるかもしれません・・・?

断片集 | trackback(0) | comment(2) |


2008/12/24 (Wed) No.3 キセキニノボル


小説はちょっと書けそうにないので、一年以上前にコミュニティサイトに投稿していた詩を載せます!←苦し紛れ

今回は「キセキニノボル」。
小説「鬼籍に登る」よりずっと前に書いたもので、内容すら小説を書いている間は覚えていませんでしたが、なんとなくリンクする部分がある気がしないでもない。



-断片集-
No.3 キセキニノボル

目の前でいつものように眠る、君。
その手からは、肌色が消えていて、
繋いだことを忘れようとしているみたい。
それでも笑いかけてくれるその白い顔は、
土に埋もれていった。

凍えて砕ける、その想いの名は「約束」
切なさにとろける、その想いの名は「約束」

月は星を望む。
君は星と唄う。

僕が星になって会いにいっても、
きっと君は喜ばないだろう。

だから。
僕は君の目の前に居る。
でも、君は僕からずっと遠いところにいる。

だから。
僕は君に話しかける。
君は答えてくれる。
でも、君は問いかけてこない。

どこかで、
ずっと目を閉じていると見えるのが
地獄だと教わった。

だけど。
今僕は、
確かに君の姿をこの瞳に映しているはずなのに、
地獄に見えてしまうんだ。

―――大切な人が、どこか遠くへ行ってしまう。
    それはとても苦しくて、痛くて。
    別れを告げて終わりなら、こんな気持ちはない筈なのに。―――


サイト内のコメントも、まんま転載。
これからは、詩も「断片集」として載せていこうと思います。 

断片集 | trackback(0) | comment(3) |


2009/03/02 (Mon) No.4 流れ

更新せずに一ヶ月たちそうだったので更新ー
とりあえず、投稿サイトからまた詩転載しときます。

-断片集-
No.4 流れ

陽が昇る前の、深い夜

たった一人でいて、何の音もしないのに。

僕自身の心の奥底は、いくらのぞいても見えそうもない。

退屈な世界は流れる。

その流れに逆らう者を、人は勇敢とは言わず笑う。

なぜ笑っていられる?どちらが正しい?

そう言いたいはずの僕の顔は周りと同じ表情を作った。

本当の自分をさらけだすのは、とても難しい。

隠して、飾って、流されていく。

みんなこの流れの先に広がるのが、楽園だとは決して思っていない。

けれども、自分に言い聞かせる。

これでいいんだって。



―――空気を読む。それはとても大切なこと。
    例えそれが自分自身を押し殺していたとしても、必要なときがある。
    だけど、僕はできれば、大人になったとき笑われる側で居たい。
    きっと、無理なことなのだけれど。―――

一年半ほど前の作品。
別に反抗期とかそういうわけではなかったはず(笑

ただ、どこか大人に向けて発信したつもりの詩だったのが、同世代の人に共感してもらえたのが意外だった。
まあ、この詩に込めた想いなんて露骨なんだけど、伝わると素直に嬉しい。
自分が持っている思想を、詩や小説として形にすることで、少しでも伝えられるのが好きだから、下手なりにも表現者でありたいと願うんだろうなぁ・・・

断片集 | trackback(0) | comment(6) |


2009/05/02 (Sat) No.5 あなたと 上

なんか勉強集中できなくなってきて、適当にPCいじってたら急に思いついたんで短編書きます。
断片集くらいのボリュームでと思ったら、書ききれなさそうなんで上下に分けようかと。
近いうちに完結するはず。

勢いで書いてるから設定とかかなり適当かも。
きっと後々読み直すと恥ずかしい作品ってタイプだね。自分でわかる 笑

黒目はなんだかクリスマスを汚したいのかもw
嫌な思い出とかあるわけじゃないですよ!

口径9mmといい、今回のやつといい、黒目ワールドでのクリスマスは幸せになるの難しいようです。
あ、でも今回はハッピーかも。自分でもどうなるか分からんけどね。
前置き長すぎた、でわどぞ。

-断片集-
No.5 あなたと

❄0❄

あなたはいつも何を望み、この世界の何を見据えていたのだろう。
当然のように毎日を過ごすこの世界の中、一人違う流れに身を投じているあなた。
本当の気持ちというのを、私は見たことがあったのだろうか。
あなたは常にこの世界に不可欠な者としてあり続けた。

どう考えても、私は釣り合うような存在ではなかった。
けれど、確かに私が見ていた笑顔は、愛すべき人間のものだった。
そう、信じている―――

❄1❄

クリスマス・イヴ。
私は華やかな街の隅で小さく沈んでいた。
あまりにも突然なお別れに、どうしていいか分からず、ひとりイルミネーションの光を浴びる。

私が、悪かったのだろうか。
彼が、悪かったのだろうか。

そんなことも分からないほど、私と彼はすれ違っていたのかもしれない。
不思議と涙の気配はなくて、当たり前だった彼の存在がなくなったことで、ただただ心に空白ばかりが生まれる、そんな感じだ。

愛情なんてものはなかったかもしれない。
二年近く付き合ったことで、お互い抱いていた感情も曇り、惰性で必要としていたのかもしれない。

そう思って今ここからさりげなく立ち去ろうとしても、それが出来ないところに、かつての感情が見え隠れして嫌だ。

誰か、ここから連れ去ってくれないだろうか。
頑固に地面にへばりついて、いまだに彼の後姿を追いかける私を、馬鹿だと笑ってくれないだろうか。

「―――君、ひとり?」

急に声をかけられて、ビクッと体が反応した。
いつの間にか横に、自分と同じくらいの年齢――ちょうど二十歳くらい――の男の子が座っていた。

流石に多少警戒して、距離を置こうと思ったが、不思議と嫌な感じがしない。

「・・・さっき、ふられた。」
何の面識もないのに、いつのまにか私は口走っていた。
自分で自分が何をしたいのか分からない。
だから、とにかくその瞬間に思い浮かんだことをしようと思った。
自暴自棄、というやつだろうか。

「やっぱり。クリスマス、なのにね。」
白い息を宙で躍らせながら、男の子はしみじみと言う。
「やっぱり?どうしてそう思ったの?」
今度は、手袋をしていない寒そうな手を、わざとらしく擦り合わせている男の子に聞くと、
「僕は、分かるんだよ。
 人の負っていうのかな。
 今なら、君におもーく乗っかってる、その悲しみとも怒りともとれないような、そんな感情。
 僕には、わかるんだよ。」
得意げに語って、後は色とりどりに光る街を見上げて黙ってしまった。

「答えに、なってないじゃない。
 どうしてそれが分かるのかを、知りたいんだけどな。」
少しの沈黙の後、意地悪く言った。
そうすると、男の子はクスッと小さく笑って、こちらを向いた。
目が合う。
優しい、黒い瞳。
柔らかく笑うその顔に、自然と鼓動が速まる。
「僕は、そういう仕事を任されているからね。
 当然、こんな力は持ってなくちゃいけないんだ。」

・・・。よく、意味が分からない。
カウンセリングのような仕事をしているのだろうか。
それにしても、この年齢でそのような仕事をしているというのはあまり聞いたことがない。
思えば、今こうして見ている間の、一つ一つの仕草が子供っぽいせいで、実年齢より幼い印象を受けているのかもしれない。
あれこれ考えていると、彼は声をかけてきたときと同じくらい急に、立ち上がって暗い路地へと消えていこうとした。

何故か私は彼ともっと話したいと思って、引きとめようとして立ち上がったのだが、あまりにも長時間座っていたのと、冬の寒さに足が痺れて、豪快に転んでしまった。
図らずも一応彼は私の元へと戻ってきてくれて、助け起こしてくれた。
「あ、ありがと・・・。」
恥ずかしくて顔を赤らめていると、
「君は、大丈夫だよ。
 もう、重荷はもらったから。」
どういたしましての代わりに、また意味の分からないことを言う。
ぽかんとしていると、今度こそ彼は暗い路地へと消えていき、私はまたひとり。


なんとなく彼がさっき見つめていたイルミネーションを見ると、そこには寄り添いあう王子とお姫様の人形が微笑んでいた。

私は、追いかけようと思った。
このまま嫌な思い出だけでクリスマスを終わらせたくなかった。
ただの我侭だけれど、彼なら、あの優しい黒い瞳を揺らして、私を迎えてくれる気がした。
痺れたままの足を叱咤し、ぎこちなく走り出す。
暗い路地には、イルミネーションの光が名残惜しそうに淡く漏れ出していた。


❄2❄

なんで、こんな走りにくいものを履いているんだろう。
何のためにお洒落なんかしていたんだろう。
彼を追いかけるために、私には邪魔なものが沢山あった。
その中に、前の恋への想いも含まれていて、私はそれを思い切って投げ捨てた。
軽くなる。速くなる。
彼が、近づく。
今は、あなたと話したいんだ。

「・・・待って!!」
乱れた呼吸の中、なんとか絞り出した声で、彼の背中を引き止める。
振り向いたときの彼の顔は思ったとおりの困り顔で、その後はやっぱり笑顔だった。
「どうしたの、忘れ物?」
からかうように、笑いながら言う。

追いかけてきてるんだから、忘れ物な訳ないじゃない。
まあ、こういうときの決まり文句みたいなものってことだろう。


忘れるどころか、いろんなものを捨ててきたよ。
だから、あなたに新しくなにかをもらわないと。
それとさっき言ってた重荷をもらったってどういうことかな。

話したいけど呼吸を整えるのに必死で、とにかく私は彼を留めていたくて。
「お、お礼!
 さっきのお礼するから、どこかでお茶でもっ。
 お、お願い!」
それだけ言って、私はくたびれてしまった。
彼はまたクスッと笑って、一言、
「いいよ。」
と言ってくれた。
どうせやんわり断られると思って次の台詞を考えていたので、少し驚いた。

「・・・その前に、はい、これ。」
と、彼は唐突にポケットティッシュを手渡す。
「え、なにこれ?」
突然のことに私が聞く。
「そこで配ってたんだ。寒いのに、よくやるよね。」
「いや、そうじゃなくて、なんで今、私に――」
今度は少し困ったようにクスッと笑った後に言った。
「えっと、鼻水。」
「・・・。」
あまりにも恥ずかしくて声が出なくて、奪うように彼の手からポケットティッシュを受け取り、顔の前で広げる。
そこで、気付いた。
ずっと、ずっと頬を伝っていた涙。
「え。あれ・・・?」
これは、恥ずかしいからなんかじゃない。
もっと、前から。

彼は優しい顔を向けているだけで、何も言わない。

止まらず伝う涙に、私は負けた。
少し、声を上げて泣く。
願わくば彼の胸の中でと思ったけれど、流石にそれは我侭すぎる。

陽気なクリスマスソングが響く中。
二年近い歳月の清算には、少し時間がかかりそうだった。



まだここまでしか書いてないす。
なんとなくで書きすぎてるような気がする今回。
オチというか、書きたいことは決まってる。
仁&七で挫折したことを、短編でまとめようってのが今回の目的でもあります。笑
未完のままには絶対にしない!!


・・・たぶん。

断片集 | trackback(0) | comment(2) |


2009/06/12 (Fri) No.5 あなたと 下

やっとこさ書き終わった。
正直、うん。あれだけど・・・
まぁ、とりあえず読んであげて↓

-断片集-
No.5 あなたと


❄3❄
クリスマスだけあって、店内はカップルで埋め尽くされている。
周りから見れば、間違いなく私たちもその中に含まれているだろう。

とりあえず私は冷えた体を温めたくて、ミルクココアを注文した。
ところが、彼は何も頼まなかった。
「何も食べることはできないんだ。」その台詞はただ単に遠慮しているだけだと思った。

「みんな、幸せみたいだな・・・。」
細々と私がココアを啜っている間、彼は店内を見回してつぶやくように言った。
チラッと覗き見たその表情は、とても満たされているようだった。

「さっき・・・」
「・・・ん?」
あまりにも満足気なその顔に、話を切り出すのをためらってしまった。
「・・・さっき、私に『重荷はもらったからもう大丈夫』みたいなこと言ったよね。
 あれ、どういう意味?」
「どういう意味って、さっき言ったとおりだよ。
 それが、僕の任された仕事。」
いまいちかみ合わない。
「それが、よく分からないんだけど。」
しつこくなってしまう気がしたけど、同じように訊く。

彼は洒落た木のイスに座りなおして、小さく咳払いをする。
「えっと。さっきも話したように、僕は苦しみとか、悲しみとか、そういったマイナスの感情が分かる。
 それは僕にとっては至極当然なことで、君がこの机やイスを『認識』して『干渉』する感覚となんら変わりはないんだ。」


・・・分かるような、分からないような。
それに、急にこんな話をされても、信じる方が無理な話だ。
出会ったときから、私はずっとからかわれているんじゃないのだろうか。そんな気もした。

「・・・信じて、ないね。」

私の心情を察したのか、彼がこちらを見つめていう。

「え。ま、まあ。あまりにも急、だから。」

そういうと、彼はふうと息を吐いた後、変わらない仕草でクスッと笑う。

「まあ、すぐに信じる人がいたらそれはそれでどうかと思うけどね。
 ただ、僕にとっては全然変じゃないんだ。
 そして、この力があるからこそ、やらなければいけないことがある。」
 
「それが、任されている仕事?」
せめて話しやすいようにと、相槌を打つ。

「ああ。人々のそういった負の感情を、回収していくんだ。
 幸せへと、繋げるためにね。」 

やっぱり理解の範囲を超えるスピードで進む話に、ついていけなくなりそうだ。

ただ、回収。その言葉だけが少し引っかかった気がけれど、すぐにその感覚は消えてしまった。

「回収って・・・
 取り除いちゃうってことでしょ?
 その、辛い気持ち、みたいなものを。」

「うん。
 だけど、それこそあと一歩で間違いに走りそうな、そのくらいの量のものだよ。
 昔はそれほどだったけど、今はもうこーんな量でも日常茶飯事。」

そう言って両手を広げて『量』を表現するけれど、私に分かるわけがない。

「そうやってみんなの心の安定を保つために、世界中を集めて周ってるんだ。」

!!
「世界中?」

「当然でしょ?日本だけじゃないよ。
 こんな悲しい状況になっているのは。
 もっと酷い状況の場所なんていくらでもある。
 その度、僕という存在は必要とされるんだ。」

彼はその仕事に誇りを持っているのだろう。堂々と話してくれる。

正直、いまだにそんな話信じられるわけがない。
けれど、彼が真面目にこんな嘘をつくとも思えない。

どう反応したものかと、表情を伺っていると、さっきの感覚が戻ってきた。
引っかかっていた『回収』という言葉。
なぜその負の感情を癒し、消去するのではなくて『回収』なんだろう。
今、確かに彼は『集めて』周っていると言った。
集めたその感情はどうなるんだろう・・・?
そう思ったときには、浮かんだ疑問を彼に投げかけていた。

「・・・・。」
彼は、困ったような顔をして、少し俯いた。
まさに言葉足らずな少年が取るような態度で、彼に対するイメージの不安定さを露骨に表していた。
これは、何か彼にとって都合の悪いことを聞いてしまったようだ。



ふと、得体のしれない不安のようなものがこみ上げてきた。
彼の事情に深入りするほど親密ではない。
赤の他人といってもさほど変わらない関係だ。
なのに、私は彼に詰め寄った。
隠している。
それを知りたいと思った。知らなければ、彼はずっと遠くへ行ってしまう気がした。



「ねぇ、どうなるの?」
いつまでも押し黙って、沈んでいく彼に、私はしつこく噛み付いた。
「・・・・・・。」
彼は、一向に答えることはなかった。

「もしかして・・・。
 あなたが全部、背負っているの?」
はっと頭に浮かんだ考えを口に出すと、彼は少し体をピクッと跳ねさせた。
相変わらず彼は口を開こうとはしないようだけど、今までと少しだけ違うその動作が答えを出していた。

「・・・。参ったな。」
暫らくしたあと、肩をすくめながら、彼はひとりつぶやいた。

そのまままた黙ってしまう気がした私が、追及しようと身を乗り出した瞬間。
彼が大きな掌をこちらへと広げて、私を制した。

その仕草には、今までの彼にはなかったじんわりとした冷淡さがあって、私はイスにぺたんと座りなおした。

手を元に戻して、彼はすっと立ち上がる。

「あっ・・・。」
反射的に、引きとめようと服の裾へと手を伸ばす。
けれど、彼は軽く体をひねってあっさりと私の手をかわした。

こうして見上げてみると、案外彼は背が高い。
ぼうっとそんなことを考えていると、彼がまた優しい顔で言った。

「ごめんね。勝手に君を巻き込んじゃって。
 僕から近寄っておいて、こうして逃げるように君から離れようとしてる。
 ホント、ごめん。」

穏やかな口元から、淡々とはきだされた彼の謝罪に、私はどうしようもできなかった。
そんな顔で、私に謝らないで欲しい。
最悪の聖夜になるはずだったのを、あなたが変えてくれたのに。

彼はとても卑怯だった。
いろいろな感情が泡のように私の中で弾けても、彼の表情を見ると、到底音になりえない脆い空気が口から漏れるだけだった。

そうして私があたふたとしていると、彼はスッと今入ってきたばかりの、店の出入り口へと向かう。
追いかけていたときの方がずっと距離があったのに、狭い空間の中で見る彼の背中はとても遠いもののような気がした。

彼が扉を開けると、向かいのおもちゃ屋さんのイルミネーションの端っこが見えた。
確か、サンタクロースが服に収まりきらない丸いおなかを嘆きながら、笑顔でプレゼントを配っている絵が照らされていた。
私が見ているのはその顔の部分だけで、彼の背中が暗がりに消えた後、扉が閉まるまでサンタの笑顔はこちらを覗いていた。

店員がずっと持ってくるタイミングを失っていたのか、今になって私の元にミルクココアが届く。
それでも私は、向こうにあるサンタクロースの笑顔を思い浮かべながら、閉ざされた扉を見つめていた。

すると、自分の存在に気付いてもらいたいかのように、私の顔にミルクココアの湯気が触れる。
ほんのりとした暖かさがそれにはあって、私は無表情のまま、ココアを啜った。

あったかい。

喉を鳴らす度に、体の中からじんわりと熱が広がっていって、ごちゃごちゃだった頭の中にも、甘さと共にやってくる。


何を、迷っているんだろうね。
何で、迷っていたんだろうね。


さっきみたいに、走り出せばいい。
今は軽いのか重いのかわからないけれど、次は私の番なんだろう。


確かな決意を持って店を出ると、先ほどのイルミネーションが目に入る。
けれど、私の記憶違いで、そこにあったのは笑顔のサンタクロースが働きつかれたトナカイを愛でている絵だった。

「本当の、笑顔だったんだね。」
私は一人、鮮やかな光たちにつぶやいてから、走り出した。
大切なことを、伝えるために。


❄4❄
走る。
甘い香りと、華やかな彩色に満ち溢れた夜の中を。
今度は、軽いわけではなかった。
重いのに、速い。
あなたへの想いがそうさせているなら、なおさら私はあなたの元へ辿りつかなければ。

白い息を大きくはいて、冷たい空気を吸い込む度に、沢山の笑顔が見える。
あなたは、立派だよ。
こんなに沢山の人を幸せにするなんて、私にはできっこない。
いじけて冷たい地面にへばりつくような私には。

けれど、この想いを、たった一人に届けるのなら、私にだって出来るかもしれない。

あてもなく走り続けていると、少し溶けている雪の表面に足を滑らせて、尻餅をついてしまった。
今日二回目だ。
あのときは、あなたが助け起こしてくれたことを思い返して、少し見上げると、くすんだ夜空が見えた。
さっきまでは、とても透明感があった気がしたのに。
そんなことを思ってもう一度見上げたとき、私は気付いた。

透明感があった気がした。そのとおりだった。
今は、濁りない夜空を、曇った靄のようなものが覆ってしまっているのだ。
目を凝らすと、靄は雲よりもずっと速く動いていて、どこかへと集まっているように見えた。

それを見て、私は確信した。
あれこそが、彼の言っていた、「マイナスの感情」というやつだろう。
少し注意すれば、明らかに異常な光景であるのに、周囲の人たちはいたって普通だ。

もしかしたら、彼の話を聞かされたり、実際に『回収』を体験しているだけあって、私だけは特別に見えているのかもしれない。

私はまた走り出した。
とにかく、靄が集まっている場所を目指す。
きっと、彼は最後にこの街全体に『回収』をかけて、二度と私の目の前に現れないだろう。
そんなのは、絶対にいやだ。

いつも運動なんてしないのに、急に相当な距離を走っているだけあって、冷たい空気が肺に刺さるように痛い。
けれど、私は走るのを止めなかった。
靄が流れ行くよりも速く、彼の元へと急がなければいけないから。

私自身この想いに確かな形を持つことができているのか分からない。
それでも、これだけ走ることが出来るのは、間違いなくこの想いのお陰なんだ。

やがて、辺り一面濃い靄で囲まれた、異様な光景が見えてきた。
確かあそこは、誰も出入りしない、廃墟になったビルだ。


辿りついたその灰色の壁を見上げる。
彼はきっと、この上にいる。
感情の整理なんて、する暇はない。
ただただあなたに会いたい。話したい。伝えたい。
それだけなんだ。

❄5❄
季節に似合わない、大粒の汗を流しながら、階段を登る。
当然のようにエレベーターは止まっていて、何の反応もなかったからだ。

外を走っていたときとは違って、淀んだ空気が次々に私を襲って、思うように呼吸ができない。
おまけに、怖くないと言ったら嘘になる暗い空間に加え、無機質な段差が並ぶだけの景色は確実に私から体力を奪う。

それでも、一段一段上がるたびに、彼の存在が近づいているのが分かるのが、唯一の救いだった。
ひどく遠いものだと感じたあの背中。
今度こそ、私は引き止めてみせる。

気持ちはしっかりと持っていても、そろそろ身体が限界を訴え始めた。
普通なら何の苦もなく登れる段差が、とてもつらく感じる。

上がりきらなかったつま先が、段差に引っかかり転びそうになる。
なんとか踏ん張って、体制を立て直し、更に上を目指す。

なんだか、涙が出てきた。
辛いからかもしれない。
彼に会えるからかもしれない。

はっきりとは分からないけれど、言い様のない、大きすぎる感情のようなものが私の胸をひたすらに圧迫する。
呼吸だけできついのに、声まで出始める。
泣いている。私は、泣いているんだ。
意味が分からないけれど、私は泣きながら、ひたすらに彼を目指して階段を登っている。


そろそろ屋上が近くなってきた。
噴出す汗を、右腕でグッと拭ったときだった。
私の胸の奥から、一筋の靄が、すうっと上へと流れてゆく。

びっくりして、私はその靄を掴もうと手を伸ばしても、私に触れることなく靄は舞っている。
「・・・・・・ッ!!」
涙を撒き散らして、唇を震わせる。
叫ぼうとしても、酸素が足りなくて頼りない空気が漏れるだけだ。

靄を追うように足を速める。

やめて・・・。やめてよ・・・。
それは、『マイナスの感情』なんかじゃない!
確かに今も辛くて、心が折れそうで、涙も流れているけれど。
これも、『あなた』を想う中に含まれているのだから。

辛い感情、悲しい感情だって、とても大切なんだ。
私があなたを想う、とても大切なコトの一部なんだ。
だから、だからっ・・・!!

「返して・・・!!返してよ・・・!!!
 私の想いを、返して!!!!!」

とっくに限界を超えた体力の中、目一杯手を伸ばしながら、最後の数段を跳んで一気に登った。

屋上へと出る扉は破られていて、私の視界に真っ黒の靄と、その中心に倒れる彼を見つける。
「・・・!!」

私は彼に駆け寄る。
頭を抱いて持ち上げ、自分の膝の上にのせ、顔をうかがう。

本当に『青色』と表現してもいいくらい、彼の顔は青ざめていた。

虚ろな目で私を認めると、彼は無理にクスッと笑った。
「見られたくなかったのにな。こんな姿・・・。
 情けないよ。」
そうつぶやいている最中も、彼の中へ次々と、真っ黒な靄が入り込んでいく。

私は彼に覆いかぶさってみたが、私の体を通り抜けて、靄は彼にはいっていく。

「もう、やめようよ・・・!!!
 何で、こんなことするの?
 あなたが、辛いだけじゃない・・・!!」

私は泣き散らしながら彼に訴える。
それでも彼は、首を弱弱しく横に振った。

「これが僕の、使命なんだよ。
 大丈夫、もう何回もやってきたから。
 僕が、少し我慢するだけでいいんだ。
 それだけでみんな、幸せになれる。」
苦しいはずなのに、彼は本当に穏やかな表情で言う。

そんな自己犠牲の考えが吹き飛ぶくらいに、その頬を叩いてやりたかったけど、彼の表情はやはり私に何もさせなくする。
ただ、私の想いが彼に伝えることができないのが悔しくて、彼の手をギュッと握って、声を張り上げた。

「馬鹿じゃないの・・・!!!?
 あなたが犠牲になって得る幸せは、幸せとは呼べないんだ!!!
 あなたがそれで満足でも、私は辛い!悲しいの!!
 目の前の女を泣かせておいて、みんな幸せになれるなんて言わないで・・・!!言わないでよ・・・。」

彼が困った顔をするのが分かった。
それもそうだ。
今日出会ったばかりの女が、今までの彼の『生きがい』そのものを否定したのだから。
それでも、彼に気付いて欲しかった。

辛いことを取り除くのが、必ずしもいいことではないことを。
私が、どれだけあなたを想っているかを。
我侭だけれど、今度は両方気付いて欲しかった。
だから、私はここにいるんだ。

そのとき。
登りきる直前に私から出て行った靄が、大粒の涙が彼の服に染み込むのと共に入っていった。

彼はビクッと体を震わせ、一瞬目を見開いたかと思うと、穏やかに目を閉じて静かになった。
恐ろしい考えが私の脳裏をよぎって、更に涙が溢れ出ようとした瞬間。

集まっていた黒い靄が散り散りに舞っていき、それぞれの方向へと流れ始めた。
真っ黒だった周囲も段々と平常の景色と戻っていく。

これは、もしかして。

彼の中からも、靄の筋が空へと上がっていく。
段々と彼の顔も肌色を帯びてきて先ほどの苦しみは全く感じられなくなった。

やがて、異様だったあの光景の名残もなく、ビルの屋上からは鮮やかな街並みが見える。
間もなく、彼は目を覚ましてゆっくりと起き上がった。

虚ろだった目もしっかりと光を灯し、優しい笑顔を私に向けてくれた。

また、いろいろな感情が私の中で弾けたけれど、やっぱり言葉にはできなくて。
代わりに、思い切り彼に抱きついた。

突然の行動に戸惑っていた彼だったけれど、そっと私の髪を撫ぜて、
「ありがとう」
と言った。

しばらくそうした後、彼は私をそっと離して、イルミネーションに染まる街を見つめる。

その横顔には、不安そうな色が混じっていた。
今まで、彼は本当に使命のためだけに生きてきたのだろう。

「やっぱり、不安?」

彼の横で、同じように街をみつめながら言った。

「・・・気にならないと言ったら嘘になるね。
 やっぱり、僕が守ってきたのだと、自惚れている部分もあっただろうから。」
彼の複雑な心情が、言葉の中から伝わってくる。

「でも、きっと大丈夫だよ。
 あなただけが、特別な存在ってわけじゃない。」

「・・・?」
私が言うと、彼はこちらを覗きこんで不思議そうな顔をした。

「みんな、知ってるんだよ。
 あなたみたいに直接見て、取り除くようなことはできないけどさ。
 お互いにその感情を共有したり、慰めあったり、ぶつけ合ったりもして。
 そうやって、みんなで乗り越えるんだよ。
 だから、みんなちゃんと持ってるんだ。
 辛いとか、悲しいとかいう『マイナスの感情』をどうにかする力を。」
我ながら説教じみた恥ずかしい台詞で、言い終わった後、顔が赤くなってるのが分かった。

「・・・そっか。」

彼は、もう一度街並みを見つめる。
子供も、大人も、この聖夜を祝い楽しむ声で溢れかえっている。

今までそれを彼なりに守ってきたのだから、我が子を想うような気持ちなのかもしれない。

あの靄はそれぞれの人の中へと帰っていった。
それでも優しい笑顔で満ちる街を眺める彼の顔は、いつか見た満足気な表情よりも、穏やかに見えた。




夜風が二人を冷やかすように吹く。
なびく髪をおさえながら、あなたはこちらを向いて笑った。

これから先、私が狂わせた道を、あなたはどう歩むのだろう。

あなたは私に手を差し出す。

私は、その手をしっかりと握った。

必要とされるなら、私はどこまでもついていこう。

それは義務でもあるし、望みでもある。

あなたが、あなたを生きることができるまで。

あなたと、歩こう。


おわり。


はい。一応完結。
けっこう一気に書いたから、誤字脱字は多いかも。
今回は、いろいろと悔やまれることだらけな作品となりました。

書き始めからの勢いそのままにできれば、もう少し作品も変わってたかも。
描写が大雑把で説得力ないのと、ここ一番の展開の悪さが際立った。

んでも、次に生かせるだろ。多分。
なんか感想あったら是非是非。

・・・いい加減眠いんで寝ます。疲れたー

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2009/06/13 (Sat) ラルス・カヌス まえがき

俺は普通の体ではなくなった―。病院で出会った、同じ境遇の仲間たち。閉ざされた未来を感じたとき、彼らはあるものを目指す。

ツーヨン様より ラルス・カヌス
イラスト:ツーヨン様

去年の夏の終わりに、自分でもびっくりするくらいのスピードで書きあげたこの作品ですが、このブログにはずっと転載してなかったんで載せます。

この小説はたった一人の読者が楽しみにしていてくれたからこそ完成できたのであり、決して黒目単身で作り上げたものではありません。

稚拙なりにも、脳内妄想から、小説という形になりえたのは、そんなひとりのおかげです。
遅すぎる感謝だけど、あのときは、本当にありがとう。

それからはコミュニティサイト等にも投稿し、非常に沢山の人に読んでいただくことができました。

内容はどうであれ、自分にとって本当に価値のある作品です。

(6/18)ツーヨンさんに描いていただいたイラストをこちらにも掲載させていただきました。
      ツーヨンさん、素敵なイラストありがとうございます!


全5話の物語ですが、長さとしてはたいした量ではありません。
それでは、どうぞ。

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2009/06/13 (Sat) -1- Z棟

-1- Z棟



   ‐ラルス・カヌス‐


人間の体は、なんとも不思議なものだと俺は思う。
ほとんど同じ時間に行動し、同じ食事をし、同じように笑う。
誰がどう見たって代わり映えのない生活。
そんな生活を送っていた人間の体が、突然壊れてしまうことがある。
理由なんてない。
神様というやつが、ほんの暇つぶしのつもりで壊してしまったのかもしれないし、自分の周りにいた幽霊というやつが、友達欲しさに壊そうとしているのかもしれない。

とにかく、俺は普通の体ではなくなった。

俺は、いたって平凡な高校に進み、いたって平凡な大学へ進んだ。
そして、いたって普通の成績で教習所をクリアし、自動車免許を手に入れた矢先。
急に体調が悪くなり、悪くもなく、良くもない平凡な仲である家族に病院へ連れていかれ、何も分からぬまま入院。
今思えば、俺の人生の中で、唯一「異常」と言えるのは、俺の体だけかもしれない。
一週間の入院の後、俺は手術もしないまま、普通の病棟とは少し離れた病棟に移される。
病名など知らない。どこが悪いかも知らない。
でも、正直俺は、あまりにも平凡な俺の人生にうんざりしていて、この病との遭遇に少し胸の高鳴りを憶えていたのである。
この思想自体もう「異常」かもしれないけれど、これからの出来事は、俺の人生の中で、いままでの平凡さからの反動で来た、「異常」のピークだったのであろう。


<1> ‐Z棟‐

俺の腕に、常に点滴がつくようになった。
今日から新しい病棟へ移る。
恐らく俺の体はかなり悪い状況なのだろう。
それでも、俺は平気だった。
この先なにが起こるかわからないこの状態が珍しく、迫っているはずの「死」には全く意識がなかった。
いつの間にか眠っていて、起きれば、既に新しい病棟。
静かにベッドの横に立っていた看護士から、いくつか説明を受けたが、半分は聞き流していた。
最後のほうに、「病棟内ならば、自由に行動していただいてかまいません」と言われ、不思議に思う。
この前は、ベッドから全く出られなかったのに、新しい病棟ならOK?
俺の体は、むしろ快方に向かっているのではないか。
それはそれでいいかと思い、考えるのを止める。
「それでは…」と、去り際に、看護士が俺の手首に黒いテープを巻く。
触ってみて、簡単には切れない素材だとわかる。
「これは、この病棟の患者様だという印なので、はずさないようにお願いします。」
淡々と説明を終え、病室を出て行く看護士。
(はずさないようにと言われても、これははずしようがないだろ…)
手首に巻かれたテープを見つめる。
何も模様がない漆黒の黒。
当然大した面白味はなく、興味も薄れていく。
俺は、病室の外へ出ることにした。
入院前と全く狂いのない感覚でベッドを起き、外へ出る。
真っ白だった。
清潔といえば清潔な印象を受けるが、あまりにも白ばかりで目が疲れる。
廊下を少し進むと、なにやらにぎやかな声が聞こえる。
少し広間があって、休憩所のようになっている所に、男と女が二人ずつ座って談笑していた。
みんな、先ほどの黒いテープを手首に巻きつけていた。
患者なのは分かるが、元気すぎる。
やはりここは、もう退院間近の患者が来るところなのだ。
四人の内、一番大声で笑っていた男が、こちらに気付いて声をかけてきた。
「おお、お前新入りだろ?一緒に話さね?どうせやること無いっしょ。」
軽い。ノリが軽い。
「ああ。別にいいよ。」
…あっさり受けてしまった。
(まあ、いいか。どうせ暇だし)
男に手招きされるまま、もう一人の男の横に腰掛ける。
テーブルを円く囲うように五人が座る。
「んじゃ、自己紹介からいこっか。
 …俺は、ダイスケ。フツーの名前で覚えやすいっしょ?よろしく。」
勝手に男が司会をしている。別にいいけど。
「僕は、康太郎。みんなコウって呼ぶから、コウでいいよ。よろしく。」
「私は、マコ。元気ありあまっちゃって、どついたりするかも知れないけど、よろしく。」
続いて残りの男と、片方の女が自己紹介する。
ここでは普通かもしれないが、こうも一気に言われると疲れる。
マコ?は、「よろしく」を言い終わった瞬間に、もう俺の肩をたたいていた。
俺が自己紹介をしようかと思ったら、前の女が声を出した。
そういえば、この女のことを忘れていた。
みんなが騒がしくするものだから、もうみんな一気に自己紹介を終えたものだと勘違いしてしまったのだ。
「……。私は…アヤ。しゃべると疲れるから、あんまりしゃべらない。…よろしく。」
この女は静かだった。
見てみると、みんな自分とそれほど歳は離れていないようだった。
むしろ、自分が一番年長者かもしれない。
みんなの視線が集まってきて、はっと気付く。
今度は自分の自己紹介を忘れていた。
「あ。えっと…俺は、秀一。シュウでいいよ。…よろしく。」
(こんな感じでいいの…か?)
一瞬の静けさに多少焦ったが、すぐにみんな笑顔を向けてくれた。

自己紹介を終えただけで、みんなは俺を仲間だと認めてくれたみたいだった。
さっき初めて見たはずの人物に、どんどん話題を振ってくる。
話の内容はいたって普通で、芸能界の話や、スポーツの話など、違和感は全く覚えなかった。
この病棟内では、ほとんど一緒にこの四人は過ごしてきたようで、その輪の中に加わることができるのは素直に嬉しかった。
みんなもう俺のことを、「シュウ」と気軽に呼んでくれて、話が苦手そうなアヤも、あだ名で呼ぶことに抵抗は全くないようだった。
話していると、大体みんなどんな人物なのか分かってくる。
軽いノリで、場の雰囲気を常に明るくしてくれる、自称イケメンのダイスケ。
ブラックなジョークをやたら連発するけど、本が好きらしく、物知りなコウ。
どんなことにも笑ってくれて、少々強めのツッコミを乱発するマコ。
少し口数が少ないけれど、時々小さく笑って、みんなを癒すアヤ。
四人とも素敵だった。
いままで会った人達の中で、この四人とは凄く仲良くなれそうな気が、なんとなくだけれど、確実にしていた。
俺みたいな人間が、この四人に加わっていいのかと不安に思うぐらい、みんなとの会話は楽しくて、ほんの一時間の会話が、俺の平凡ないままでの人生よりよっぽど価値があるのではないかと思った。

それでも、一つだけ気になること。
みんな、この病棟に移ってから知り合ったのだろう。
こちらに移ってからの話しかしていない。
過去を、語らない。
病人なのだから、当然なにかしら原因があってここにいるわけで、過去の話をするのは嫌なのかもしれない。
俺は疑問に思ったが、今のこの五人の仲に過去は関係ない。
本当に仲良くなれそうなだけに、知りたくもあったけれど、俺は聞かないようにすることにした。
(きっとこうやって暗黙の了解みたいなのが守られていくんだろうな。)
そう思っていると、マコが俺に、
「シュウは体、どこが悪いの?」
と、あっさり聞いてきた。
過去はNGでも、現在の話題はどんなものでも問題ないらしい。
「うーん。俺、なんも聞かされてないから、分かんないんだよね。
 まあ、こっちに移ったから、大丈夫だとは思うけど。」
そう答えると、みんなキョトンと目を丸くしている。
何言ってんの?という顔だ。
「ん…どうしたの?」
少し怖くなって、咄嗟に前にいたアヤに聞いてしまう。
「シュウ…、なんで、大丈夫だと思ったの?」
アヤが、ゆったりとした口調で、質問で返してきた。
「え……だって、ここって退院間近の患者がくるトコじゃないの?
 みんなフツーに元気だし…。」
俺は、思っていたことをそのまま言った。
少し空気が固まって、わずかだけれど沈黙が生まれた。
すると、ダイスケがわざとらしく溜め息をして、俺に言った。
「この病棟、なんて呼ばれてるか知ってるか?
 Z棟だよ。ズィー棟。
Aから始まってZで終わる、アルファベットのZ。
この後はもうないですよー、ってこと。」
淡々と口にし、一拍置いて言った。
「つまりな…。
 この病棟に連れてこられたってことは、もういろんな病気の末期ってやつで、助かる見込みがないってことだよ。
 このテープ、前ここにいた人なんか、『死の輪』って呼んでた。
 もう諦めなさいって印。」

「よくしゃべる口だな。ガーゼ詰め込んで、包帯で塞いでやろうか。」
「へっ。やれるもんならやってみろや。」
「看護士さーん。」
「おいっ!」
コウは急に知らせるのはまずかったとでも思ったのか、わざとふざけて、この場を和ませようとしてくれた。
けれど、急に俺の耳に届いた、ほとんど死亡宣告に近いこの事実に、俺は小さくはない目眩を、確かに感じていた。

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2009/06/13 (Sat) -2- 陽の下へ

<2>  ‐陽の下へ‐

Z棟に移って一週間。
みんなと知り合って一週間。
ダイスケから聞かされた事実に軽いショックは受けたけれど、今はもう平気だった。
何も病気を負わずに、平凡に命を長引かせるよりも、みんなと短い間でもいいから、笑い合っていたいと、そう思えた。
まだ、知り合ったばかりだというのに、自分がこんな気持ちになれるなんて、本当に不思議だった。
あっさりと事実を述べたダイスケは、後でコウに諭されて、少しすまなく感じていたようで、俺と話しにくそうにしていた。
けれど、いつもマコがやるように、思いっきり背中を叩いて、「気にしてないから」と笑顔で言ってやると、いつもの軽いノリで楽しませてくれた。
みんな、本当にいいやつだ。


薬が届く時間。
仕方なく、俺は病室に戻る。
薬を飲む瞬間だけは、俺にはっきりと病気の存在を認識させてくる。
普段からつけている黒のテープは、もう見慣れてしまって、あまり「病人」だという意識を呼び起こさせる物にはなりえなかったけれど、この瞬間だけは、いつまで経っても慣れることはないだろうと思った。
看護士が入ってくる。
銀色のトレイに沢山の錠剤がのせられている。
(少し、薬の量、増えてないか…?)
今まで見たことのない色の錠剤が、一番奥の方に見えた。
看護士は、俺の様子に気付いているはずだろうに、なにも説明もせず、表情を変えないまま、淡々と作業をこなしていく。
結局、この日から、俺の薬は二種類増えた。


全部薬を飲み干し、点滴を付け替えてもらってから、病室を出る。
あんな部屋の中に閉じこもっていたら、気が狂う。絶対に。
昨日見た音楽番組に出ていた、俺の大好きなスウェーデン出身のバンドの話がみんなにしたくて、休憩所に向かう。
相変わらず廊下にまでダイスケの声が聞こえてきて、自然と笑みがこぼれる。
「よっ。」
小さく声をかけて、テーブルに近づいていく。
すぐに、気付いた。
「あれ?……アヤは?」
何も考えず、口にしていた。
「え…うん。いま、あの子調子悪いみたいだから…。」
いつもがさつなマコが、答えにくそうに言った。
「あ…そっか。」
自分にしか聞こえないぐらいの小さい声で、俺は情けなく相槌を打った。
ショック、だった。
この病棟の意味を知ったときよりもショックを受けた。
当然、みんな病人なのだから、いつ調子が悪くなるのは当たり前だ。
調子が悪くなるどころか、死んでしまうことだって…
そこまで考えて、頭を振る。
とにかく、この仲良し五人組の中から、誰かが欠けているのを初めて見た俺は、言いようのない不安を覚えていた。
それに、俺は昨日のバンドの話を、アヤにしてやれないのが何故かすごく悲しかった。
話している中で、アヤが音楽をよく聴くのは知っていた。
その音楽の好みが俺に近かったから、きっと昨日のバンドも好きに違いないと思って、ずっと話したかったのだ。

みんなは誰かが欠けているこの状況を、何度も味わっているのかもしれない。
いつものように休憩所のテレビを見て、笑い合ったりしている。
俺は、そんなみんなが、誰かが欠けることに平気そうに見えて、腹が立った。
けれど、みんなの様子を見ていると、すぐに強がっているだけだと分かった。
誰かがいないときに、ただ気分を沈め続けても、良くなるわけではないし、体調を崩した方も悲しむ。
そう悟ったみんなが考えた、精一杯の強がりなのだろう。
だから、俺も心の中ではアヤの無事を祈り続けながら、いつものように軽くジョークを飛ばす。
昨日のバンドの話は、アヤが来るまでとっておくことにして。


次の日。
朝一番で飲み干さなければいけない薬の山を、複雑な気持ちで飲む。
アヤの調子はどうなのだろうか。
そればかり考えてしまう。
思えば、みんなの病室の場所は全く知らなかった。
最後の一粒まで飲み干し、少し気分が沈む。
流石に、朝からこの量はキツイ。
それでいてこの精神状況なのだから、自然と顔色は悪くなっていただろう。
看護士が一言二言、体調について聞いてきたけれど、俺は大丈夫とだけ繰り返していた。
看護士が出て行った後、ゆっくりベッドから出る。
少し自分の体が重く感じた。
絶対、体重など増えていないのに。
病室から出て、いつものように廊下を歩く。
いつもより少しだけ静かな気がしたけれど、ダイスケとマコがふざけあっている声が聞こえた。
廊下が広くなっていき、並んだテーブルが目に入ってくる。
みんなが座っているテーブルの周りに、アヤはまた、いなかった。
明らかに落胆の色を見せる俺に、ダイスケが声をかけてきた。
「よっす。どした、元気ないな。変なモンでも食ったか。」
「こんな病棟内じゃ、へんなモンが口に入ることはないよ。」
いつもの自分らしく振舞おうとする。
けれど、分からなかった。
(俺って、いつもどうやってしゃべってたっけ…)
胸の中にある、痛いような苦しいような喪失感。
情けないくらいに小さくなる俺に、今度はコウが話しかけてきた。
「シュウ、あれか。恋煩いか。
 そんな寂しがっても、想い人がやって来るわけじゃないぞ。」
こんなときに。アヤは大変かもしれないのに。そうやってからかうのか。
そう怒ろうとしたけれど、いつの間にか俺は、顔を真っ赤にして、「そんなんじゃないって」と必死に否定していた。
みんながやらしい目線を飛ばしてくるせいで、慌てて否定し続ける俺。
コウは、ちょっと元気になった?とでも言うような顔をしている。
…わざとか。
(俺って単純なのかな…)
少し悲しくなったけれど、俺が恋愛に疎いとか、そんな人間性は、もうみんな分かってしまっているのだろうと思った。
「シュウ、大丈夫だよ。あの子、時々こうやって体調崩すけど、何日かするとまた朝一番に来て座ってんだから。落ち込まない、落ち込まない。」
「……そっか。」
優しく教えてくれたマコの言葉に少しほっとして、イスに座る。
すると横からダイスケが、
「やっぱアヤのこと好きなんじゃん?」
「ちっ、違うって。」
「顔真っ赤だし。さっきマコに言われて安心してたし。」と、コウ。
「うっ、うるさい。」
少し照れくさかったけれど、みんな落ち込んだ俺を励まそうとしてくれた。
やっぱりいいやつらだと、改めて思った。


それから何日か過ぎて。
俺たちはいつものように過ごしていた。
けれど、アヤは戻ってこない。
マコは、大丈夫だと言い切ったこともあって、必死に不安に思わないようにしているようだけど、どうしても寂しい表情をこぼすようになっていた。
ダイスケも、コウも、俺も、一緒だった。
誰かがいなくなってしまうかもしれない、よどんだ不安が胸を満たしていく。

アヤの顔を見なくなって二週間。
精一杯の強がりもほとんどできなくなってきた頃。
何故かいつもよりかなり早く目が覚めた。
この病棟に来て、いつも起きる時間には数分しか狂いがなかったのに。
朝の薬を飲む時間まで、まだ二時間もあった。
どうせ目が覚めたのならと、俺は病室を出て、休憩所へ向かう。
まだ陽の光は弱く、いつもは眩しい廊下の白も、それほど映えていない。
音が、聞こえた。
休憩所のテレビが点いているようだ。
不思議に思って近づいていく。
休憩所の真ん中のイスに、ちょこんと小柄な影。
アヤだった。
俺は最初信じられなかったけれど、すぐに固まっていた心がほぐれていく気がして、自然と笑顔になっていた。
声をかけようとして、そういえば二人きりは初めてだ、などと余計なことを意識している内に、アヤがこちらに気付いた。
「…あ。シュウ。おはよう」
いつもの、ゆったりとした口調。
二週間も顔を合わせていなかったというのに、全く普段と変わらない挨拶をしてきた。
「うん。おはよ。」
だから、俺も普段通りに挨拶で返した。
隣に腰掛ける。

二週間、本当に心配した。
みんな不安に思っていた。
ずっと、ずっと待っていた。

あの有名な女優が結婚した。
俺の応援している野球チームが連勝中。
ずっと話してあげたかった俺の大好きなバンド。

沢山、あった。
たった二週間会えなかっただけで、沢山話したいことがあった。
けれど、俺はなにから話せばいいかわからなくて、黙ってしまう。
アヤは、そんな俺に優しく笑いかけたあと、小さな音をもらしているテレビに向き直った。
ずっと、沈黙が続いた。
だけど、二人の間には優しい空気が流れていて、親しい仲だと、沈黙も全然苦にならないものなのだなと、俺は感じていた。
俺は急に眠たくなってきて、座ったまま目を閉じる。
暖かな涙が一筋、頬を伝っていたけれど、気にならなかった。


少し強くなった日差しが顔に当たって、目が覚めた。
瞼を開くと、いきなりマコの顔が視界に入ってきて驚く。
「よく眠れたかね。秀一君。」
なんだ、そのしゃべりかた。
つっこんでやろうかと思ったけど、すぐにまたマコが口を開く。
「やっとアヤが戻ってきたと思ったら、なにやってんだい、あんたら。」
アヤ。そうだ。いつもより早く目が覚めて、休憩所に来たら、二週間ぶりにアヤに会って、それで……
横にはダイスケとコウもいた。
二人とも、俺と俺の少し横をチラチラと見ている。
なにやっているかと疑問に思っていると、今度はやけに肩がこっているのに気付く。
肩のあたりに重みを感じる。
気になって隣を見ると、アヤが俺に、もたれかかるように眠っていた。
「…。」
一瞬、思考回路が遮断される。
一秒。二秒。三秒。
「…………!!」
俺は、声にならない悲鳴をあげるので精一杯だった。


その後。
マコがアヤを起こして、アヤはいつもどおりで。
ダイスケとコウに、俺がさんざんいじられている所に、看護士が来てみんなを病室へと引きずっていった。

今日は、違う意味で精神状況がおかしい。
目の前の薬の山を、複雑な気持ちで飲む。
「……ふう。」
全部飲み干した後、看護士が点滴を付け替えながら、俺に言った。
「早朝は、体調が崩れやすいので、極力病室からは出ないようにしてください。
 それに、あまり宮沢さんに負担をかけさせないよう、お願いします。
 宮沢さんは、最近やっと体調が戻ってきたところなので…」
この歳になって、怒られてしまった。
(アヤ、宮沢っていうんだ…。というか、最近調子よくなってきたってことは、やっぱり今まで悪かったってことか。大丈夫なのかな…)
考えていると、いつの間にか看護士は病室を出ていたので、自分も休憩所へと赴く。
さっきまでいた休憩所に、もうみんな集まっていた。
みんなアヤを取り囲んでわいわいしゃべっているけど、アヤはいつものようにまったりとしている。
遠くから、その様子を見ていると、
「なににやけてんだよ。こっち来いよ。」と、ダイスケ。
アヤもこちらに気付いて、笑いかけてきた。
少し恥ずかしかったけれど、アヤは全然気にしていないようで、少し傷つく。
近づいていき、改めてアヤの様子を見てみると、異変に気付いた。
アヤの腕はわずかだけれど細くなっていて、顔も少し痩せているようだった。
先ほどの、看護士の言葉が頭に浮かぶ。
『宮沢さんは、最近やっと体調が戻ってきたところなので…』
胸の奥が、きりきりと軋んでいるみたいに痛かった。
少し目線を下げて胸の痛みに耐えていると、バンッと背中を叩かれた。
横を見ると、マコが小さくガッツポーズを作って、力強く笑っていた。

みんな、分かっているんだ。
それぞれ、重い病をその身に負っている。
それでいて、なんて強いのだろう。
(俺も、もっとしっかりしなきゃな。)
グッとこぶしに力を込めて、アヤに向き直った。

テレビを時々見ながら、くだらない話題で盛り上がる。
ダイスケがふざけて、コウがたしなめ、マコがその様子を見ながら大声で笑う。
俺がたまにツッコミを入れて、その横で小さくアヤが笑っている。

いつもの、五人だった。

しばらく談笑して、話し疲れてくると、テレビを眺めながらの、優しい沈黙。
みんな五人で一緒にいられることの幸せを噛み締めているようだった。
昼間のテレビ番組は穏やかで、自然の特集をしている。
山から場面が切り替わって、海が映された。
どこまでも続く蒼の上を、気持ちよさそうに飛ぶ影。
それを見て、アヤがはっと口にした。
「あ…。あの鳥…」
目が輝いている。
俺も画面をジッと見てみる。
「カモメ…か?」
「カモメ……。」
アヤが、愛しそうに口にする。
そんなとき、コウが横から言った。
「あれは、ユリカモメだね。
 日本産のカモメには、オオセグロカモメとか、シロカモメ、ウミネコなんかがいるね。
 渡り鳥で、神奈川県の県鳥にもなってる。
 けっこう人懐っこくて、あの『かっぱえびせん』なんかでも、餌付けできちゃうんだ。
 学名は……えっと、なんだったっけな…。」
「コウは…やっぱり、物知り、だね。」
アヤが感心していた。
「聞いてもないのに、勝手に解説始めるけどな。」
と、笑いながらダイスケが言う。
俺は、得意気に語ったコウが、アヤに尊敬の眼差しを向けられているコウが、何故か無性に羨ましかった。
(カモメか…後で、こっそり調べておこうかな)
そんなことも考えるくらいだった。
テレビはなにも語らず、ただただ蒼の世界を飛び回る、白いカモメの姿を映している。
とても、気持ちよさそうだな、と思った。
「カモメ…。」
またアヤが目を輝かせながら、カモメを呼んでいる。
「……見てみたいな。」
ぼそっと、アヤが言った。
その様子を見て、俺は思いついたことを、咄嗟に口にしていた。

何故、急にそんなことを考えたのか分からない。
今まで、俺が平凡なことしかしてこなかったから、その反動なのか。
この五人でいられる時間がなくなっていくのを、病が蝕んでいく体の何処かで感じていたのか。
とにかく、俺がこの計画を口にしたときから、この五人の人生は、大きく変わっていったのだろう。

「見に、行こうよ。カモメ。」
みんな、キョトンとしている。
この病棟に来て、俺がここは退院間近の患者が来る所だと、勘違いしたときと同じ顔。
「こんな病棟飛び出してさ。
 あんな広い世界目指して。
 みんなで…見に行こうよ。カモメ。」
みんなまだ目を丸くしている中で、アヤだけが目をキラキラさせている。
「アヤも見たいだろ?カモメ。」
「…うんっ。」
アヤにしては珍しく、強く頷いた。
またあの看護士の言葉が頭をよぎったけれど、だからこそ、行かなければいけない気がした。
限られた生命。閉ざされた未来。
そんな中で、少しくらいの光は目指してもいいんじゃないか。
だから、俺はこの病棟から脱出して、海を目指す計画を考えた。
それがどれだけ無謀なことか、入院前と寸分変わらぬ感覚を保っていた俺には、分かるはずもなかった。

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2009/06/13 (Sat) -3- 背に負う過去

<3>  ‐背に負う過去‐

俺が突然言い放った計画は、当然すぐに行われることはなかった。
いつも軽いダイスケもマコも、真剣な俺を見て、いつものように茶化すことはなかったけれど、計画には賛同しようという気にはならないようだった。
みんな、無謀なことはよく理解している。
毎日飲まなければいけない薬、腕につけられた点滴。
俺自身、今は平気でも、これを絶ったら、いつか必ず倒れるのであろう。
そんなこと、俺だって十分わかっていた。
以外だったのは、冷静なコウが少し乗り気だったことだ。
もし脱出したときのことをじっくりシュミレーションして、急に問題点を指摘し始めたのには驚いた。
結局、この日はみんな複雑な表情をしたまま、それぞれの病室へと戻っていった。
アヤだけは、ずっと目を輝かせていたけれど。

俺は病室に戻り、よく脱出計画について考えてみる。
さっきコウがいろいろ言っていた。
この病院から一番近い海の場所だとか、そこまで行く交通手段だとか。
遠出をするにはお金だって当然必要になる。
だけど、その中でも一番の問題はみんなの体調を保つ薬のことだった。
俺はアヤにカモメを見せてやりたい。けれど、俺自身も病人だということを、決して忘れてはいけない。
考えれば考えるほど、この計画は無謀だった。
病人5人で、海を目指して病院を抜け出す。
確実に、無事で済む旅ではないだろう。
この病棟を出ること自体不可能かもしれない。
そんな状況でも、何故か俺はこの計画を思いついた時点で、これは自分に科せられた使命なのだと思っていた。

次の日、みんながまた休憩所に集まる。
アヤだけが、いなかった。
まだ体調が安定していないのだろうか。
昨日、計画を提案したときは、あんなに目を輝かせていたのに。
不安がまた込み上げてきたけれど、近づいていくと、マコが、少し薬が強くなって睡眠時間が長くなっているのだと教えてくれた。
少しほっとしたものの、それは病気が進行しているということだ。
胸の奥には、不安が残ったままだった。

昨日の計画のことを考えているのだろう。
それぞれ、複雑な表情。
いつもあるはずの笑顔がないこの状況を、自分が作り出してしまったことに、胸が痛んだ。
少し沈黙が流れた後、ダイスケが咳払いをして言った。
「シュウ…。脱出するって計画のことだけどな…。
 俺達も、考えたことがあった。」
驚いた。俺と同じ考えを持っていたのか。
「何かを見てみたいとか、そんな目的はなかったけど…
ずっと気が狂いそうだった。
 俺達は、かなり長い間ここにいるからな。
 ……みんな、ばらばらだったんだ。
今よりも、体調が悪くて、笑い合うこともなくて。
 こんな病棟にいるからだって決め付けて、自分達の弱さに気付いてなかった。
 けど、みんなで集まって笑ってると、体調も良くなったし、毎日が楽しくなった。
 こんな場所でも、生きる方法を見つけたんだよ。」
初対面の俺にも、全く違和感なく接してくれたみんな。
その笑顔の中には、苦しい過去があったのだろう。
俺は、一番幸せなタイミングで入院して来たのかもしれない。
「もうこの先長くないことは分かってる。
 けど、残った時間を、何もなくても、その何もない時間を幸せに過ごすための術を手に入れたんだから、それでよかった。
 そんな中にシュウが来て、もっと賑やかになって、このまま笑っていられると、そう思ってたんだよ。」
ダイスケは、いつもより少し低い声で語ったあと、俺の目を見て、最後に聞いた。
「ここにいれば、終わりまでは笑っていられる。
 それは俺達が保証してやる。
 それでも…それでも。
 行きたいか。外へ。
 見せてやりたいのか。アヤに。」
ここに、アヤはいない。
頭の中で、「死」の文字が迫り来るのを感じた。
俺は、言った。
「行きたい。
 見せてやりたい。アヤに。
 俺だって長くないんだろう。
 なら、せめて誰かを笑顔にさせてやりたい。
 今よりも、もっと、もっと。」
何も、考えていなかった。
ただ、弱っていくアヤの姿だけが俺の思考を支配して、いつの間にか言っていた。
真剣な俺の顔。
それを無表情で見つめるダイスケ。
すると、ダイスケが二カッと笑って、言った。
「カッコイイな、お前。
 いいよ。その計画。俺達も乗る。
 それだけの決意があれば、何とかなるかもな。
 ……よかったな、アヤ。」
(へ?アヤ?)
「何言ってんだよ。アヤは病室…」
と言いかけとき、テレビの陰から、アヤが出てきた。
顔が一気に熱を帯びてく。
「これは当然の報いなのだよ、秀一君。」
また、それか。
「アヤが戻ってきたところを、いきなり一人占めしたのだから。
 アヤはみんなの癒しっ子なのだよ。」
コウとマコが、フォフォフォと笑いながら言う。
流石のアヤも、俺の告白じみた決意の言葉に、顔を赤らめていた。
「あのとき、散々いじってたじゃねーか!
 というか、ダイスケが珍しく真剣にいい話してたのに、なんか台無しになってんじゃん。」
「いいんだよ。あの話は本当だけど、重い話もドッキリに使っちゃうのが、俺たちのクオリティーさ。」
ウインクしながら、親指をグッと立てて言う。
全然カッコよくない。

その後も、顔を赤くしたまま、ギャーギャーと騒ぐ。
みんな笑顔で、俺の計画には賛成してくれているようだった。

けれど、俺の責任は重大だった。
折角みんなが作り上げた幸せな空間から、危険な場所へと連れ出そうとしているのだから。
気を引き締める俺に、コウが言ってくれた。
「みんな、同じ気持ちだったんだよ。
 このまま終わっていくのは、なにか寂しく思いながらも、笑ってきた。
 一度止めた計画を、もう一度やろうって言い出すのは難しいしね。
 感謝してるよ。
 僕も、アヤにカモメを見せてあげたかった。」
(……コウも、アヤが好きなのかな。)
そんなことを思ったけれど、聞かないことにした。
「アヤって、前からカモメに興味持ってたのか?」
と、代わりにコウに聞いてみると、
「うん。なにがきっかけかは知らないけど、テレビにカモメが映ると、いつも釘付けになってたよ。朝早く起きるのも、毎日やってる、五分くらいの短い自然特集見るためみたいだったし。」
そうだったのか。知らなかった。
まだまだ、アヤのことも、みんなのことも、知らないことがあることを感じて、少し悔しく思った。



早速、俺達は準備を始めた。
言いだしっぺの俺より、コウの方が何かと気がつくので、総指揮はコウが執っていた。
金銭面では、何故かダイスケが相当な金額を隠し持っていたのでクリア。
衣服に関しては、とりあえず自分の服が病室に多少あったのでそれを着ることにする。
アヤはこの病棟での暮らしが相当長いのか、患者用の服しか持っていなかったから、脱出後にすぐ買ってやるとみんなで約束した。
周辺の地理は、コウが完璧に記憶していると胸を張っていた。
あとは、海までの交通手段と、それぞれの薬。
薬のことは、みんな分かっていながらも、後回しにしていた。
無理だったとしても、少しの間だけでも、希望を長く持ちたかったから。
「うーん。バスとか電車はこの辺は全くないんだな。」
「おかしいよね。普通病院の近くって、アクセスしやすいはずなのに。」
「まあ、ここはZ棟だからな、病院から余計離れちまってる。」
ダイスケとマコが、頭を抱えて考えている。
アヤは自分の病室で荷物をまとめていて、コウは役に立つものを探すといって、どこかへ行ってしまった。
「こっちの病棟に止めてある車を奪って行くとか?」
「確かに、看護士なんか、こっちの仕事少ないからカギつけっぱにしたりするけどな…
 それ以前に、運転できないだろが。」
「あんなの簡単だって、少しいじればすぐ慣れちゃう、私に任せてっ。」
「マコが運転したら、計画開始と同時に、全員天国行きだよ。」
「はっはっは。面白いこと言うねえ。」
ダイスケが、いつもより強めにどつかれて沈んでいた。
(あ。というか、車?)
「俺、免許持ってるよ。」
思い出し、さらっと、口にする。
「「ええっ!!」」
二人の驚きの悲鳴が、休憩所に響いた。


コウが戻ってきた。
懐中電灯をどこかから持ってきていた。
「どうしたの、やけに楽しそうだけど。」
「コウっ、シュウが車の免許持ってるんだってよ!
交通手段は、車で決まりだな。」
「そっか。よかった。車は最初から使うつもりだったけど。」
「コウ、運転できるの?」
「いや、ゲーム感覚でなんとかなるかなと。」
恐ろしいやつだ。
「まあ、免許持ってるなら、運転はシュウに任せよう。
 あ、そういえば、自分の部屋あさってたけど、予備の薬がいくらか棚の一番下にある鍵付きのボックスに入ってたよ。暗証番号これね。」
そう言って、数字が並んだ紙を差し出す。
「「「……へー。」」」
付き合いの長い二人も、コウの隠された能力に驚いているようだった。


自分の病室に戻って、ありったけの薬を持ち出した後、もう一度休憩所に集まる。
アヤも、戻ってきていた。
両手で、割れ物でも扱うように、ウサギのぬいぐるみを抱えていた。
「アヤ、それ、持ってくの?」
「……うん。友達、だから。」
…友達。そう言ったアヤの顔にはふざけている気などないようだった。
(かなり小さい頃から、ここにいるのかもしれないな…)
そう思うと、悲しくなった。
幼い頃に、終わりを宣告されるなんて、残酷すぎる。
本人は教えられなくても、次々と去っていく、ここの住人達を見ていれば、いずれか悟ってしまうだろうから。
「…可愛い、でしょ?」
アヤが、にっこりと笑う。
そのぬいぐるみは、ところどころ破れかけていたけれど、アヤの胸に抱かれて、幸せそうに見える。
「うん。可愛い。」
そんな様子を見て、自然と笑顔になって返した。
なにか距離が縮まった気がして、一人浮かれていると、いつの間にか戻ってきていたダイスケに頭をペシッっと叩かれた。
「顔、にやけすぎだぞ、秀一君。」
今、ブームですか、そのしゃべり方。
「あと2時間で消灯時間だ。実行に移すのは明日か明後日だな。
 準備が整い次第、出発しよう。」
ダイスケが、窓の外を見ながら言った。
「ああ、できるだけ早いほうがいいな。
 …あ、この病棟から出る方法考えないと。」
「それは大丈夫だ。前計画を思いついたときに、脱出ルートは確認してある。」
「…そっか。いよいよ、だな。」
「…ああ。」
俺とダイスケは、これから飛び出していく外の世界を眺める。
アヤは、一人笑顔で、ぬいぐるみの頭を撫でていた。
そんなところにコウも戻ってきた。
暗くなっていく病棟の中で、これからの旅に想いを馳せる。
しばらくして、アヤが不安げに言う。
「……マコは?」
そういえば、遅い。
「…っ。探してくる。」
ダイスケが、スッと立ち上がる。
見ると、今まで見たことのないような顔をしていた。
思うところでもあるのだろうか。
声をかけようとしたとき、廊下の角から、マコが姿を見せる。
少しフラフラとしながら、こちらに近づいてくる。
安心して、俺はマコに話しかける。
「遅かったな。明日か明後日には出発するんだから、頼むぜ。」
いつもの調子で笑ってくると思って、少しふざけた調子で言う。
「…明日か、明後日?……脱出する、あの計画?」
「なにいまさら聞いてんだよ。当たり前だろ。」
「脱出…この病棟を、出る…。」
何故か、元気がない。やたらと肩で息をしているように見える。
ガクッと膝をついて、さらに呼吸が深くなる。
「…おいっ。大丈夫かよ!?」
「…だめ。…勝手にお外に出るなんて、悪い子…」
「え…?」
何を言っているか分からなくて、戸惑う。
マコは床で丸くなって、とうとう泣き出してしまった。
「悪いことしたら、おばさんが、おばさんが…!
 やめて、怖い。おばさん、やめて…!!」
いつものマコからは考えられないしゃべり方で、泣きじゃくる。
ダイスケが俺をはねのけて、マコを優しく抱える。
「…おいっ。マコ。大丈夫。大丈夫だから…。」
耳元で、優しく語り掛けるダイスケ。
俺は、声が出なかった。
いつもあんなに元気なのに。
なんで…なんで?
何度もマコには励まされたりしたから、この光景は俺にとってショックすぎた。
みんな、病気を、負っているんだ。
分かっている。
それぞれに、暗い過去があるかもしれないことも、いつ体が悪くなってもおかしくないことも。
分かって、いた。
戸惑い続ける俺に、アヤが小さく言った。
「マコはね…、頭の中に、なにか悪いものができちゃったんだって。
 難しくて覚えてないけど…、ときどき嫌な思い出とかが、急に頭に浮かんだりしちゃ     うって言ってた。」
「そう、なのか…。」
「…マコのこと、嫌いにならないで…。」
俺の服の裾を引っ張って、心配そうにアヤが言う。
「…大丈夫。俺が、弱かっただけだから。」
俺は、自分の決意の甘さを痛感し、自分の心に喝を入れる。
とにかく、この状況をなんとかしないと。
看護士を呼びに走ろうと思ったときだった。
さらに、マコの呼吸が荒くなっている。
そんなマコの肩を、ダイスケがグッと掴んで、目を閉じている。
(何しようとしてんだ?あいつ…)
そう思った瞬間、ダイスケはマコへ顔を近づけていった。

…目の前で、二人の唇が重なる。

俺は走り出そうとした格好のまま固まり、コウは精一杯の無表情で見てないフリ。
アヤは何故か、顔を赤らめながらウサギの目を手で隠していた。

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